7月22日-1-

いい天気だなんて分からない。

それもそのはず。外は真っ暗だった。

良くある早目の就寝により、夜中に目が覚める状態だ。


ボサボサと髪を手櫛で整えながら起き上がった。

部屋の灯りをパチンと点け、ゆっくり伸びをした。


やっぱり、ソファーで寝るのよりは布団で寝る方が疲れが取れた気がした。


外に出ていってみたらどうなるかな。

拉致された人に出会す可能性も少ない気もするが、危険度も増すかもしれない。

夜ってこともあるし、昨日の朝に会った、アル中のおっさんなんかに遭遇したら何されるか分かったもんじゃない。


二度寝しよう。

立ち上がったのも束の間、灯りを直ぐに消して、また布団の中に潜り込む。


怖いし、外が明るくなってきたら活動しよう。

そんな事を考えながら、再び眠りに付こうとした時ー


ピンポーン・・・


インターホンが鳴った。


「えっ!?」


誰か来た?何で?

さっき部屋の灯りを点けたのが良くなかった。

まさか誰かがここを訪ねてくるとは思えなかったし、十中八九嫌な事が起こる気がする。


居留守を決め込もう。


そう決意した矢先、再びインターホンが鳴った。

なんだよ!誰もいないから諦めて帰ってくれ。


そう願うも虚しく、連続でインターホンが鳴り響く。


怖い怖い怖い。

借金取りに追われる債務者になった気分だ。


そうだ。誰が訪ねて来たのかインターホンカメラで確認しよう。


確か・・リビングに壁掛け式のインターホンカメラみたいなのを見た気がする。


静かにゆっくりと起き上がり、足音を立てずに歩いた。


部屋の電気は勿論点けず、暗い部屋をそろりそろりと進んでいく。

心臓の音が聴こえてくるのが分かる。


やっぱり見間違いでは無かった。


リビングに入った右側に、壁掛け状のインターホンカメラがあった。


そこに映っていたのは、悠里と大室さんだった。


「はぁ?」


所在なさげに悠里はキョロキョロとしている。その横で、大室さんは真顔で立っている。


何故・・僕の家が分かった?


とりあえず顔見知りである事は分かって、ほっと肩をなでおろす。


このまま居留守を決め込んでも大丈夫だろうと思ったが、再びインターホンが鳴る。


しつこい。


数分ごとに悠里が押している。

真横で大室さんはというと眠そうに、手を口の前に置き、欠伸をしている。


ピンポーン・・・


諦める気配の無い悠里。


大室さんも悠里の奇行を止めもしない。


このままではらちが明かない。


観念してリビングの灯りを点けてから、玄関まで向かった。


玄関ドアのサムターンを回して、少し開けた。


隙間から悠里が顔を覗かせて、驚いた様子で言った。


「えっ?正護君!?」


「何で僕がここにいるのが分かった?」


大袈裟に首を横に振って悠里は答えた。


「いやいやいや、まさか正護君がいるとは思ってなかったんだよ!!」


どうゆう事だ?

それじゃ僕に用がある訳ではなく、たまたま訪ねて来た先に僕がいたと言うのか?

これだけ民家がある中で、周りから離れた三軒ある中の一軒である僕の家に?


そんな偶然そうそうに起こりうるとは思えない。


「いや、嘘だろ?」


露骨に疑った表情で僕は悠里を見る。


「ほんと!本当に偶然なんだってぇ!」


手をパタパタと振って悠里は言ってるが、にわかには信じがたい。


「いや、そんな偶然あり得ないでしょ!」


そう言って僕はパタンとドアを閉めた。


直後インターホンが鳴る。


「ちょ、ちょっとぉ!!嘘じゃないよ!!」


ドア越しに悠里が言った。


「とりあえず中に入れてよぉ!!」


今からこれをなしにする訳にもいかない。

そうなるとやり方は限られてくる。


再びドアを開け・・というか鍵は開けたままなのでインターホンを鳴らす必要は無かったのだがな。


げんなりした表情で僕は言った。


「んじゃ、とりあえず話しは聞くから、聞いたら帰ってくれ!」


言うと悠里は笑顔で首を縦に振った。


「うんうん。ありがとー」


二人が入って来た。

大室さんが小さな声で「お邪魔します」と呟いた。


「ひゃー、まさか正護君が居るとは思わなかったなぁ」


玄関先で靴を脱ぎながら悠里は言う。


仮に僕だと分かった上で、ここに来たとしたら、どういった方法を使ってここにたどり着けたのだろう。

そもそも僕に用事なんかあるとは思えないけど。

悠里は妙に慣れ慣れしく接してくるが、人見知りをしない。それがこいつの性分なのかもしれない。


リビングに入り二人はソファーに座った。


僕は立ったまま二人の話しを聞こうと思った。


「あの後、大変だったんだよぉ?」


あの後というと、僕が無様に殴られて逃げ出した後のことか。

思い返すと少し恥ずかしい。この二人は、その現場を見ていた訳だしな。


「黒田が、あまりにもしつこく勧誘してくるんだもん・・・」


呆れた様子でこめかみに手をやり、ため息を吐く悠里。

悠里も黒田を呼び捨てしているのが面白い。とは言っても、僕は黒田本人の目の前じゃ、呼び捨てには出来ないけど。


突如、思い出したかのように、ぽんと手を打った。


「あ、正護君!叩かれた頬っぺたは大丈夫なの?」


叩かれたって聞くとあれだが、実際はグーで殴られたんだけどね?


「あ、うん」


そっけなく僕が言うと、悠里はすりすりと自分の頬を擦った。


「良かったねぇ?」


良くはねぇよ。いや、僕を心配して言ってんだろうとは思うんだけど。


「んで、どした?」


話しが脱線するのも面倒なんで、冷静に切り返す。


「それでも、私達の仲間に会わせろーとか言っちゃってさ!」


握りこぶしで手を振り上げ、悠里が言ってるが、そんな愉快なキャラじゃないだろ黒田は。


「私が無理無理無理って言っても全然引いてくんなくて、そしたら隣に居たおじさんが急に涙ぐんでね?」


はぁ?

いまいち要領を得ないぞ?

隣のおじさんって井上さんだろ?

その井上さんが泣き出したのか?


「悠里さん、話しが少し飛んでますわ?」


冷静な表情で大室さんが言った。


「えっ?そう・・・かな?」


指を頬に指し、きょとんとする悠里。


「私が説明しましょうか?」


頼むからそうしてくれ。


「うんうん。芹香ちゃん頭いいもんね!」


起こったことを説明するのに、頭がいいとか、あまり関係ない気がするけどな。


まぁ、悠里が説明するよりはマシだろ。


「黒田さんが、悠里さんの肩を掴んで、しつこく会わせろと言って、井上さんが止めに入ったのですわ」


大室さんは、井上さんの名前を覚えてたのか。

黒田や主婦の白川さんも、悠里達の前で呼んでたもんな。

それでも、どこにでもいてそうな、冴えないおっさんの名前を覚えている大室さん凄いなぁ。

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