7月21日-6-

「だから、君は僕達とは居たくないのだろ?無理に誘うのもあれかと思ってね!」


「んー、でも悠里さん達を無理に誘っているようには見えますよ?」


僕がそう言うと、黒田は首を傾げた。


「誘ってはいない。女の子二人で危ないからと言ってるんだ!」


そんな事を言う黒田に、鼻で笑い僕は言った。言ってやった!


「はぁ・・楓花ちゃんをダシに使って二人を引き留めてるようにしか僕は見えなかったですけどね?」


「そんな訳ないだろ?」


黒田が睨んできた。


「きゃ、客観的に見て、僕がそう見えたから言ったまでっす」


「話しにならないね。君は友達とかいないだろ?」


「話しが脱線してますよ?今、僕を口論で言い負かせたいからってそんな事を言ってなんになります?」


僕と黒田のやり取りに他の人達が気まずそうにしているのが分かる。いや、大室さんだけは無表情のままだ。


内心、僕の心臓もバクバクと音を立ててる訳だけど。

黒田が怒って殴りかかって来たら一目散に謝罪しようと思った。


「もういいよ・・・つか、さっさと出ていけよ?」


呆れ気味にため息を吐く黒田。

このまま追い討ちをかけるように言ってやりたい気もするが、黒田にキレられたら僕に勝ち目は無いし止めておこう。


「了解です!それでは皆さんさようなら!」


僕は日本人特有の社交辞令的な笑顔でそう告げ、リビングから出ようとした。


「あっ・・・待ってよ?」


分かりやすく困った顔で、悠里が言った。


悠里達もこの場から解放されたいのは理解出来るけど、僕を頼られても困るのだがな。


「夏川さん、お待ちになって下さい?」


続いて大室さんが言う。


二人に引き留められると空気もこんなだし、そそくさと出ていくのは気まずい。


「いや、でも、ね~?」


そう言って黒田を見ると、腕を組んで険しい顔をしている。


引き締まった腕から血管が浮き出ている。

主食はプロテインってところか?なんて分析している場合ではない。


「わ、私達も正護君と一緒に出ますね?」


僕を巻き込むなよ。

一人で行かせてくれよ。


「何故、僕達から距離をおこうとするのか聞かせてもらえないか?」


真剣な眼差しで黒田が問い詰める。


「いやいや~ですから避けてる訳じゃないですよ!」


困った顔で悠里は言う。

黒田には日本語が通じないのか?

いつまで経っても一方通行な物言いに嫌気が差してくる。


「僕達に何か問題があるのかい?」


黒田の一方的な質問責め。

僕達にではなくお前に問題があるわって突っ込みたくなる。

悠里と大室さんを待っている人がいるのだから諦めるべきだろ。


「ここにいる人達も不安でいっぱいなんだ!だからこそ、皆で力を合わせてやっていこうじゃないか?」


「はぁ、ですけど私達を待っている人が心配すると思うんです」


引きつった笑みの下に警戒心を隠しながら悠里は言った。


大室さんは依然として無表情だが、悠里の方は身体が強張っている。


一瞬の間を置き、黒田は問い掛けた。


「その人の所へ、僕を案内してくれないか?」


どこまで空気が読めてないんだこいつ。

はっきり言えば面倒くさい。


誰かの関係性に介入するのは良くないが、悠里達を待っている人のことを考えると、穏便にこの場から離れる方法を考えた方がいいだろうな。


ふと考え込んでいると大室さんが口を開く。


「悠里さん、そろそろ行きますか?」


真顔で大室さんが言った。


「えっ、あっ、う、うん!」


慌てて返事を返す悠里。


「それは・・少し酷いんじゃないか?」


そう言って、黒田は立ち上がる。


「何が?」


「僕を無視しているじゃないか!?」


大室さんは黒田から視線を逸らしてもう一度笑った。

笑ってはいるが・・・冷たい表情だ。

取り繕ったように口の端が微妙に上げられただけの冷笑。


「私は悠里さんに従うって言いましたよ?その悠里さんが、夏川さんとここを出ると仰っているので、それに従っているまでですよ?」


「まだ話し合いの最中だろう?」


「話し合い?一方的に意見を述べてるだけじゃないですか!」


小馬鹿にした口調で大室さんは言う。

正直ちょっと怖い。


「そんな事はない!!落ち着いて話し合おうと言ってるだけじゃないか!」


両手を広げ力説する黒田。


「またそれですか・・」


ボソッと呟く大室さん。

露骨にうんざりといった表情だ。


「この島は分からない事が多すぎるだろう?」


疑問文で問いかけられても誰も答えない。


続けて黒田は言った。


「ここから出たいだろう?」


ここからと言うのは、この家ではなく無名島のことを指しているんだろうけど、今の僕達はこの家から一刻も早く出ていきたいのだがな。


「く、黒田君ちょっといい・・かな?」


おどおどとした様子で黒田ファミリーの、おっさん井上さんが言った。

いや、喋った!!喋る機能付いてたんだ。


「どうしました井上さん?」


「この人達にも他に行く当てがありそうですし諦めませんか?」


「諦める、諦めないの話しじゃないでしょう井上さん?」


諭すように黒田は言うが、諦めろよとしか出てこないわな。

黒田の問いに俯いたまま、井上さんは黙ってしまった。

もっと反論しろよとか思ったが、黒田が実質的なリーダーポジションにいる訳だから、あまり言い返せないのだろう。


ここは追い打ちをかけて言っておこう。


「あの、少し気になってたんですが、何でアタッシュケースを井上さんに持たせていたんですか?」


突然の僕の質問に黒田は小馬鹿にしたように鼻で笑った。


「えっ、何いきなり?お前何が言いたいの?」


ついにはお前呼ばわりかよ。


「あんな重いアタッシュケース、普通は黒田さんが持つべきでしょ?」


「ぼ、僕が・・・!」


急に、井上さんが声を荒げた。


「僕が持つと言ったんだ!」


そうだったのか。なら僕の発言は完全にやぶ蛇だ。


「僕も・・何か、皆の役に立ちたいから」


社畜の鏡というか、望んでパシりに志願していたのか。

無名島に拉致される前でも、平凡な冴えないサラリーマンだったのかなと思った。


「井上さんの言った通りだが?何か問題あるか?」


不全とした態度で黒田は言った。


「いや、それでも、自分が持つと・・・」


「言ったさ!!」


僕の発言を遮り、黒田は怒鳴った。

正直、凄く怖いです。


「てか、お前は何が言いたいんだ?」


大っぴらに喧嘩腰な黒田。

本当に黒田は教師なのか疑いたくなる。

証拠もある訳じゃないし、案外嘘を付いても知っている人に出会す可能性もかなり低いだろうから職業を偽っても問題はないのかもしれない。


「おい、早く答えろよ!?」


口調に刺がある。

敵意剥き出しで熱くなっている。



















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