7月21日-4-

深刻気な表情で黒田が近づいてくる。


「もしかして、私達が怖いのかい?」


「い、いや、そうゆんじゃなく・・・」


黒田から目線を外し、頬をポリポリと掻きながら答えた。

頼むからもう去ってくれ。行かせてくれ。


「皆、不安なんだよ!?私も不安だし、君は見ていて危なげに見えるからさ!」


本当に余計なお世話だ。

ズレた熱血が伝わってくる。

小、中学時代にもこんな奴はいたな。

体育教師らしいっちゃらしいが、甚だ迷惑なだけだ。


「いや、あの・・一人が好きなんで?」


いい加減察してくれよ?

嫌がってるの分かるだろうが?


「く、黒田君、この子、嫌がってるんじゃ、ないかな?」


緊張気味に白川さんが答えてくれた。

その通りだ。よくぞ言ってくれた白川さん!


「一人は危険だよ?」


黒田が低いトーンで言った。

外面が良く出来てらっしゃる。

だが、お前の行為はお節介なんだよ。


「グループだと安心とは限らないでしょ?」


「どういう意味だい?」


鋭く睨み付けてくる黒田。


「特に他意は・・・」


「私達の中に信用出来ない者がいるとでも言いたいのか?」


それもあるけど、それだけでは無い。

集団は目立つから危ないってのもあるし、誰かが怪我をしたら、放って切り捨てるなんて出来ないだろうが。

切り捨てても、そいつがなんやかんやで怪我を治して切り捨てた僕達に逆恨みで牙を向く事もあるかもしれない。


たら、れば、かも、なんて言い出したらきりがないけど、それを黒田に説明した所で、余計にヒートアップしそうだ。


「なんとか言ったらどうなんだい?」


学校の先生に叱られている生徒か僕は。


「いや、だから・・・その、」


「ありゃ~正護君じゃん?」


背後から聞き覚えのある声がした。


振り向くとそこには、浅川悠里ともう一人、知らない女性がこちらを歩いてきていた。


悠里は僕の方に小さく手を振って数歩歩み寄る。


正直、余計にややこしくなりそうで嫌な予感がした。


思考の迷宮に堕ちそうである。


とりあえずは悠里達二人に小さくお辞儀をする。


「何かあったのかな?」


驚くほど当たり前に首を突っ込んでくるなこいつは。


「夏川君、この方達は?」


「あっ、浅川悠里って言います!」


僕が答える前に悠里は答えた。

正直かなり助かる。隣の悠里と同い年位の女性は僕は知らんしな。


栗色の髪のショートヘアーの女性。

悠里が綺麗な顔立ちの美人なら、この人は可愛い感じの美人だな。

まぁだからと言って僕の彼女の夏海の方が可愛いがな!!


大室芹香オオムロセリカと申します」


そう告げて、大室さんは深々とお辞儀をした。


悠里とは対称的に、奥ゆかしい感じの人だな大室さんは。


「君達は二人だけなのかい?」


あぁ・・こいつは悠里達も勧誘しようとしてんのか。

長話しになるんだったら、このままフェードアウトしたい気分だ。

森の中だし、さっきから虫も飛んでるし、立ち話しも正直疲れる。


黒田はどこからどうみても体育会系だから、多少は問題ないだろうが、お前の後ろにいる三人はそうじゃないだろ?

グループの統率者を買ってでるなら、周辺の体調管理にも気を使えよ。

それに僕が言う事でもないが、沿岸でアタッシュケースの中身を見て、何気に重そうだとは思っていた。

それをあのおっさん・・・井上さんだかに道中持たせるのも如何なもんかと思う。


体力自慢の黒田が持つべきだろう。


「今は、二人ですよ?」


それを聞いた黒田が目をキラキラと輝かせて即答した。


「じゃぁ、君達も私達と一緒に来ないか?」


こいつは黒田軍団でも作る気なのか。

来る者拒まずの精神は、やがて破滅するだろうし黒田の意図が読めない。


何も考えてないって事はないだろうけど、逆を言えば何を企んでいるのだろうと考えてしまう。


悠里と大室さんが来てくれた事により、僕への感心が薄まったのは助かる。


コミュ障特有の陰湿さが、黒田に不快感を与えていた訳だしな。


「えっと・・もう他に組む人がいるんですよね私達?」


苦笑気味に悠里が言った。


「ふむ」


手を顎に置き、考えてますよのポーズを取る分かりやすい黒田。

何を考える必要があるのか。普通に諦めたら、ここでの話しはおしまいだろう。


少し間を置き、黒田は不敵な笑みを浮かべた。


「それでは、私達をその者の所へ案内してくれまいか?」


「えっ、、いやいや、それはー・・・」


悠里の両手の動きで、無理ってのが伝わってきた。

正直、困惑した悠里の姿に、ざまぁ~って感じにニヤけてしまいそうになったが、この場でそれはマズイと判断して、ぐっと笑いを堪えた。


「どうしてだい?皆で一致団結して、この島を脱出しようじゃないか?君達にも家族がいるだろう?皆で助け合って・・・」


「それ、注意事項に引っ掛かりますわ?」


言葉を遮り、大室さんが言った。


「そ、それじゃ、君達は何もせずに、ここで暮らすつもりなのかい?」


声が大きい。

黒田は頭をボリボリと掻いた。


「そう言う訳じゃないけどー・・・」


今度は悠里が答えた。


黒田の後ろにいる三人も困惑の色を隠せないでいる。


いや、それより、大丈夫か?


「あっ、あのー・・」


「何だ!?」


僕の問いに八つ当たり気味に黒田は言った。


「う、後ろの、ふう、かちゃん?大丈夫ですか?」


僕は楓花ちゃんを指差した。

白川さんの後ろに隠れるようにいた楓花ちゃんだが、顔色が悪く、気分が悪そうに見えた。

白川さんが壁になっていたのもあるが、話し合いに誰もが気づけないでいた。


言うと同時に、白川さんが振り向いた。


「ふ、楓花ちゃん?どうしたの?気分が悪いの?」


お母さんのように、楓花ちゃんの手を取る白川さん。


「へ、平気・・」


「そんな訳ないじゃない!!井上さん、水出して!?」


アタッシュケースから水筒を取り出し、白川さんに渡す。

手際よく白川さんは、楓花ちゃんに飲ませた。


「この暑さだもん。脱水症状になったのかね?」


白川さんはアタッシュケースからワイシャツを取り出し、丁寧に楓花ちゃんの額の汗を拭いている。


「気分が悪いのなら報告してくれないと困るじゃないか?」


黒田が呆れ気味に言った。


「・・・ごめんなさい」


「ちょっと、黒田さん?そんな言い方無いでしょう?」


「だが、早めに報告してくれなければ、対処も遅れてしまうだろう?」


「きっと、私達の話し合いの邪魔をしたくなかったんじゃないかな?」


俯き、悠里が呟いた。


この問題はどっちが悪いとか無いんじゃないか?それよりも、一刻も早く話しを切り上げて楓花ちゃんを休ませるのが最善だろう。


「と、とにかくどこか布団のある場所に行きませんか?」


不安げな表情で悠里は言った。


「そうだな!楓花ちゃん行くよ?」


黒田は楓花ちゃんをお姫さま抱っこで持ち上げて僕達に言った。


「確か・・直ぐ近くに誰もまだ住んでない住宅が有ったからそこまで皆さん、ついてきて下さい!」


はぁ?解散だろうが?

白川さんと井上さんはともかくとして、僕と悠里と大室さんは無関係だろう?


「そうだね。私達のせいで、こんな事になってるしね・・・」


「はい。行きましょう!」


悠里と大室さんはそう言って黒田達について行く。


僕はその場で呆然と立ち尽くした。


「何してるの!?行くよ正護君!!」


悠里が叫んだ。

どっち道このまま無言で立ち去っても、この狭い島だとどこかでエンカウントしてしまうだろうし、その後の事を考えると僕もついて行くしかないという結論に至った。


楓花ちゃんには申し訳ないけど、体調の悪そうな楓花ちゃんを見て、これはこの場をなし崩しに切り上げるチャンスだと思ってしまった僕を、楓花ちゃんには恨まれても仕方ないと思った。


まぁ、絶対に言わないけどね!!


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