7月21日-3-
散り散りに人は去っていった。
僕と・・踞った少年だけが沿岸にいる。
少年はまだ震えており、動く気配はない。
不憫というか自業自得というか。
僕は変形したメガネを取り上げ、手で形を直してみる。
グラグラはしているけど、使い物にならない程ではない。
少年からしたらメガネを失うのは死活問題だと思う。
配給にメガネなんて送ってこられる訳がないし、度が合ってなかったら意味もない。
なんだかんだでここでの生活での不便さが浮き彫りになってくる。
「こ、これ落としましたよ?」
少年の肩を叩き僕は言った。
少年はメガネを受け取ると黙って頷いた。
まぁ、こいつからしたら僕なんか酷い奴らの一人だろう。
助けに入ることもせず、あの怖い形相のおっさんが居なくなるまで見ているだけだった訳だしな。
「じ、じゃ!」
僕はそう告げると少年から離れた。
少年はボソッっと、
「皆、死ねばいいのに・・・」
と呟いた。
それを僕に言ってもデメリットしかないだろう。僕がもし、あのおっさん程じゃないにしろ、今の発言でキレたりするかもとか考えなかったのか?
正直言って、まるで学習していない奴だ。
確かに周囲に5、6人いたけど誰もが正義のヒーローって訳じゃないだろ。
我が身大事と言えばそれまでだが、下手に仲裁に入って大怪我をしてしまえば、この島の状態じゃ治療も困難だろうからな。
僕なんか、こうやってメガネを直して声掛けたりしてやってるんだし、いなくなった奴らに比べたら、まだ辛うじて善人だろう。
僕は、聞こえてないフリをしてその場から去った。
さて、これからどこを廻るかだが・・・
もしかしたら、アタッシュケースを拾えるかもしれない。
全部で10前後は落としていたから急げば、まだ間に合うかもしれない。
僕は小走りに森林の方へ向かった。
獣道は人が通っているだろうが、木の枝に引っ掛かっている可能性もあるしな。
見逃さないように、慎重に上を見上げながら捜索する。
もう既に、他の人の手に渡ったかもな。
アタッシュケースがばら撒かれて15分から20分位は経っている訳だしな。
キョロキョロと辺りを見渡すも発見は出来ない。
まぁ、配給が、今日で最初で最後って事はないだろうと思うがな。
別段、急いで確保しなければならない訳ではないだろう。
素直に諦めて、もう少し無名島の地形を理解する事に専念しよう。
探索がてらアタッシュケースを見つけれたらラッキーだしね。
徒歩10分位で森を抜けると、遠くにだが海辺が見えた。
この無人島は、むやみやたらに広い島って訳ではないようだな。
海辺が島の端ってのもあるし、あちらにも人が遠巻きに見える。
あまり人と関わりたくないし、近寄らず別の場所を探索してみよう。
それに、いくら小さい島といっても、僕の仮家の場所に戻れなくなっても困る。
ユーターンで来た道を戻り、別の方向へ向かって行く。
森林にも何人か人がいるが、そんな中でグループ行動している人達なんかを目撃すると、萎縮してしまう。
中年の男女と、小学生か中学生位の少女に、体格の良い僕位の年齢の男の、四人組が前から歩いて来る。
すれ違いざまにペコリと申し訳程度のお辞儀をした。
中年二人が息を合わしたかのように揃ってお辞儀を返してくれた。
夫婦か!!って突っ込みたくなるほど息が合っている。
よく見ると、中年男性の手にアタッシュケースがある。
まぁ、普通に考えればグループの方が入手する可能性は上がるわな。
消え入るように、小走りに立ち去ろうとすると野太い声で呼び止められた。
「君、これからどこへ行くんだ?」
声も大きいし、聞こえないフリもどうやら無理がある。
振り向くと、四人は立ち止まって僕を見ていた。
「あっ、えっと・・・特には?」
男はニカッと白い歯を見せて言った。
「それじゃ、僕達と一緒に行動しないか?」
目力がある。
ボディビルダーみたいな男に、そんな風に言われると、どう断ったら良いか思い浮かばない。
「えっ・・・そ、それは・・その、」
「一人じゃ何かと怖いだろ?」
あぁ、何て言えばいいのやら。
「あなた、昨日、手を挙げてアタフタしてた子でしょ?怖くないからこっちにおいで、な?」
中年のおばさんが、不憫そうな目で僕に言った。
あぁ、やっぱり昨日のアレ、結構インパクトあったんだ。考えないようにしようと思ってたけど黒歴史確定じゃねぇか。
そもそも25歳にもなって子供扱いされてるしなぁ。
「僕は
うわ、勝手に自己紹介始めちゃってるし。しかも年下じゃねぇか。
「私は
中年のおばさ・・・白川さんが隣にいる中年男性の紹介もした。
言われて、中年男性の井上さんが小さくお辞儀をした。
あぁ、やっぱり夫婦じゃないよな。
「そして、この娘が
そしての意味も分からんが、どや顔で体育教師黒田が言った。
黒田が言うと同時に、素早く楓花ちゃんは白川さんの後ろへ回った。
白川さんの背後からヒョコリと顔を出し、不安げな眼差しを僕に向けてくる。
黒田、白川、井上、山川だな!
オッケー覚えました。ありがとうさようならまた会う日まで!って訳にもいかんよな。
プライベートな事はごめんなすってぇ!って言って逃げれるような雰囲気じゃないしな。
「あぁ、えっと夏川です。はい」
なるべく個人情報は晒したくない。
とは、言っても昨日フルネームで呼ばれてはいるんだけどさ。
「一人だと何かと不安じゃないか?なんか、君はオドオドしてるし、もし良ければ一緒に行動しようじゃないか?」
そう言って黒田はゴツゴツした、なんとも頼りがいのある手を差し伸べてきた。
余計なお世話だ。
同情されてる様が堪に障る。
年下のくせに偉そうなのも不愉快だ。
きっと、今までの生活が黒田をここまで自信家にしたのだろうが、誰もが群れたがるとは思わないで欲しい。
一匹狼と言えば聞こえがいいが、そうではなくて、僕は他人を信用していないだけだ。
そもそも初対面や二度三度会っただけの人間に、簡単に心を開くのは無理だ。
コミュニケーション障害って言われても仕方ないが、それで結構だ。
コミュ障だからって人生に絶望している訳じゃないんだ。
「いや、今はまだ誰かと組んだりは考えていないんですよ!」
落ち着いて、やんわりと僕は断った。
これで素直に引き下がってくれ。正直、問答は面倒だ。
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