7月21日-2-

無名島とか言ってたがセンスの欠片も無い名前だな。


名も無き島か・・・


無人島を所有している、どこぞの富豪の爺さんが、暇潰しの余興にこんな馬鹿げた事をしでかしたのか?

考えれば考えるほど黒幕であろう人物の意図が読めなくなってくる。


家から数百㍍歩いて探索している内に一面青く美しい浜辺にやって来た。


海が綺麗だなんて感動するでもなく、ただただ漠然と呆けていた。


見渡すと何人か人も居た。

僕と同じように呆然と立ち尽くしている者もいた。

この島はやっぱり無人島なんだなと改めて再認識させられた。


脱出不可能・・・なのか?


映画や漫画みたいにイカダや舟を造って脱出なんて出来はしない。


作ってる最中に腕輪が作動して爆発とか、そもそも材料も無いし造る技術も無い。


材料・・・木材とかなら住宅を壊して入手出来るかもしれないが、注意事項とやらに引っ掛かる。


何もかもが上手く行って、無事に海に出れたとしても、地形が分からないから何日も漂流する恐れもある。


直ぐ近くに日本があるなんて保障も無い。


とにかく・・この案は論外だ。


そうなってくるともう主催者側が何らかのアクションを起こして、そこにつけ込むのを待つしかない。


完全に詰みの状態だ。


今はここに居ても無意味だし、別の場所へ探索しようと考えていた矢先・・・ー



ヘリの音だ。

上を見上げるとヘリコプターが飛んでいるのが見えた。


浜辺にいる人達が大きく手を振ってアピールしている。


「おーい、た、助けてくれぇー」


「こっちだー、こっちに来てくれぇー」


周りの人達が叫んで助けを呼んでいる。


無意識に僕も手を振っていた。


ヘリが近くまでやって来る。


主催者側には気付かれてないのか?

こんな行為バレたら腕輪が作動するんじゃないのか?


不安になりつつもここを抜け出せるかもしれないと思うと気分も高揚としてくる。


ヘリは浜辺の真上まで来ていた。


太陽の日差しが眩しくて直視出来ないが・・・


何か・・落とした・・・?


良く分からないがパラシュートに何か付いている?


人じゃない・・・小さ過ぎる。


爆弾とかじゃないよね?

不安な気持ちになっていく。


やがてパラシュートは沿岸の方へと下降していった。


なんかアタッシュケースみたいな物だった気がする。


落ちて行った付近にいたメガネを掛けた若い男が、それを拾い上げた。


当然のように他の人達もその少年に近寄っていった。


僕も気になるので遠巻きながら少年に近寄った。


頑丈そうな黒いケースだ。


「空けてみますね」


周囲の人に確認を取り少年はケースを開けた。


開けた瞬間、ドカーンと爆発しないのだろうかと不安になったが、そんな事は無く、中には食糧や衣服や下着が詰め込まれていた。


食糧といっても住宅にあった乾パンや缶詰めみたいな非常食とは違い、野菜やお米だった。

下着も、男物、女物の両方が入っている。

子供パンツまであるので誰が拾っても問題が無いようなラインナップだ。

支給物資を送って来たようだ。

主催者側のヘリだったと分かり少年は小さくため息をついた。


この後もヘリは同じように島周辺を丸字に廻って、次々とアタッシュケースを投下していた。


合計で10個位、落としたんじゃないか?


ケースを落とし終えるとヘリは当たり前のように無名島を離れていった。


なるほどな。ここで暮らす上で必要最低限の物資は送られてくるそうだ。


「タバコ入ってないんか?」


真夏の暑い中、ヨレヨレのジャケットを羽織った中年の男が言った。


「入って・・ないですね?」


少年が告げると中年のおっさんはブツブツと愚痴っていた。


我慢すればいいだけの話しかもしれないが、ニコチン中毒やアルコール中毒の人達には酷かもしれないな。


「これを機にタバコなんか辞めたらどうですか?お身体に良くないし、周りの人にも迷惑を掛ける事もありますし!」


少年がそう言った瞬間・・・


おっさんは舌打ち混じりに少年の顔面を殴った。


「な、何するんですか!?」


殴られた頬を抑えながら少年はおっさんを睨み付けた。


その反抗的な態度に、おっさんは露骨にキレた顔で叫んだ。


「体に悪い?分かっとるわ!!そんな事は!!クソガキが!!」


罵倒しながら少年を蹴りだした。


僕を含めた周りも数歩後退して、その様子を見ていた。


「おま、お前みたいな若造が・・偉そうに、な、説教するなやボケが!!」


はぁはぁと息を切らしながら蹴りまくる姿がただ単純に怖い。


少年は丸くなって、「止めてください」と連呼していたが、おっさんは止める気配はない。


メガネが外れ地面に落ちた。

メガネは変形しており、もしかしたらもう使い物にならないかもしれない。


少年は泣き出した。


「ご、ごめ・・ごめんなさい、許してくぅ・・下さい!!」


姿勢は土下座の形となり、頭を手で覆い、少年は震えている。


謝罪の言葉におっさんの蹴りが止む。


相当な興奮状態だったのか、肩で息をしながら言った。


「こと、ばには・・気ぃつけろやガキ!」


「ご、ご、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなざいぃー」


震えながら丸まった少年の姿勢を見て不憫に思えてくるが仕方ないとも思った。


依存症の人間に◯◯は危険です、体に悪いです、周囲に悪影響です何て言っても、治す気がない奴なら人によっては腹を立てる。


それも見ず知らずの年下の奴が言っても反感を買うリスクは上がるわな。


少年の諭すかのような口振りがカチンときたのかもしれないが、まぁ普通に考えれば暴行にまで及ぶのはあり得ない。


このおっさんの頭のネジが飛んでる訳だが、それにしても誰も止めに入らない事が以外だ。

自分の事は棚上げだが誰か仲裁に入るだろうと思っていた。


おっさんは、パチンとアタッシュケースを閉じると、


「どけっ!!」


と叫び、アタッシュケースを手に歩き出した。

傲慢に言い放ち、当たり前のように我が物顔で去って行く。


そしてそれを誰も止めない。

僕も人の事言えないが周りが臆病者ばかりだわ。

昨日・・幼女を庇っていたお姉さんみたいな戦士はここには居なかった。



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