7月21日-1-
起きたら今までの事が夢だったらとか、そんなまさしく寝言みたいな事は考えてはいない。
目が覚めると前日の出来事でいかに自分が疲れていたのかが分かる。
文字通りの爆睡。町工場で仕事をしていた頃にも残業でクタクタになって、帰って来たら爆睡する事も多々あったが、精神的に疲れたといった所だ。
仕事をしていた頃か・・・
たった数日前まで仕事をしていたのにそんな感覚に陥っているのか。
まぁ仕事を行かなくていいのは嬉しいが、そんな事よりも彼女は元気にしているのだろうか。
彼女が携帯にも出ない僕を不審に思い、僕のアパートに来たら、行方不明と思って捜索願いを出してくれるだろうけど、僕に限らずとも昨日の監禁者の身内も捜索願いを出すだろう。
そうなってくれたら案外早くに居場所が見つかって解放される気もする。
後ろ向きに考えていても仕方ない。
今はとにかく現状の出来うる事をしよう。
そしてここから出たら、彼女・・・夏海に一番に逢いに行こう。
夏海と付き合ってもうすぐ1年。
同い年の25歳で僕らは二人共に夏の漢字が付いている。
「正護と結婚したら私の名前・・夏川夏海なんだね?」
「そうなったら、ナツナツって呼んだ方がいいかな?」
「やだぁ、気持ち悪いー」
照れながら笑う夏海の横顔が可愛かったなぁ。
寝起きで、ぼ~っとどうでも良い出来事を思い出していた。
ムクリと起きあがりとりあえず伸びをした。
カーテンを開けると外は明るかった。
頭が痒い。監禁されてから風呂にも入っていないしな。
ボリボリと頭を掻きながら、辺りをうろつく。
風呂場発見。
お湯もどうやら出る事を確認した。
これまたご丁寧に脱衣場にタオルも十枚位ある。
「ガス代・・・まだ払ってなかったなぁ」
ふっと自宅の事を思い出した。
このまま何ヵ月も拘束されたらどうなるんだろうか。
警官の人も拉致ってる位だし相当な手の込みようである。
寝起きで頭があまり働かないのと思いの外、快適に暮らせるかも知れない状況に、昨日までの危機感は薄れている。
シャンプーにリンス、ボディソープもある。
石鹸もある。石鹸派の僕には有りがたい。
とりあえずは眠気覚ましも兼ねて風呂に入る。
シャンプーをしている時は目を瞑っている訳だから、今誰かが斧を振り上げて横にいたら怖いなぁとか考えながら思い出した!!
そういえば玄関の鍵閉めてなかった。
疲れていたとはいえ迂闊だった。
早々に風呂から出て急いで体を拭いて服を着ると、早足で玄関の鍵を閉めに行った。
あぁ監視カメラあったね。
玄関先にある監視カメラを見て思い出した。
風呂場まで戻り風呂場をくまなく調べ監視カメラが無い事を確認した。
いや僕の入浴シーンなんて誰得だよって話しじゃなくて、ここなら監視カメラに見つからないって事を確認する為だ。
風呂場にまで監視カメラがあったら女の子達は大変だろうしな。
主催者側が男ばかりだったらゲヘゲヘと鼻の下を伸ばすのかなとか思ったけど、こんな回りくどい事しないよな。
昨日話した浅川悠里とかいう意味の分からん女も風呂場で監視カメラの有無をやったんかなぁとか考えていた。
あいつ・・・拉致られてんのに妙に落ち着いてたな。
肝が座ってるのか、それとも虚勢を張って不安な気持ちを誤魔化していたのか・・・あるいは主催者側の奴とか?
悠里がとかじゃなく、冷静に考えてみれば監禁されている集団の中に主催者側の奴が潜り込んでいる可能性もなくはないのか?
一番の謎は主催者側の目的だろ。
こんな事をしでかして何のメリットがあるのか分からない。
奴らの意図・・・新生活をしましょう、末永く、めでたしめでたしってなる訳ないだろ?
土台無理な話しだ。
昨日いた監禁者の中には老人も居た。
まぁ老人だけじゃなく、病気持ちもいてもおかしくないし、病院なんて無いし、医療に心得がない監禁者ばかりだろうから、そんなに都合良く医者も拉致ってますとは考えにくい。
考えれば考えるほどここでの暮らしは無理がある気がする。
分からん事が多すぎる。
おそらく無人島だろう場所に見ず知らずの人を集めて暮らすとどうなるのか。
それを監視カメラで撮って誰かが観る事を目的・・・も無理がある。
お金儲けの為にここまでやるのも考えにくい。
この島の衣食住に莫大な金が掛かっているはずだしな。
テーブルから適当に非常食を手に取り、ソファーに腰を掛け、食べながら色々と考えては見るが最適解は見つかりそうもない。
頭も冴えて来たし・・やっぱり外を出て色々と探るしかないのか。
面倒くさいなぁ。
まぁ別にここに戻って来る必要も無いけど、生活痕もあるしなるべくここを仮の我が家にしよう。
ゆっくりと立ち上り嫌々ながら家を出ようとした時、玄関前に鍵が吊るされているのを発見した。
あぁ、なるほど。
これで外に出る時も安全って訳ね。つくづく踊らされているなぁと実感する。
鍵を掛けポケットに鍵を突っ込んだ。
とりあえず人が集まりそうな場所よりも、脱出出来るかどうかの有無を知りたいから、島の端を見ておきたい。
昔読んだ漫画であった、デッカイ敵から護る為のバカでかいバリケードとか無い事を祈ろう。
後は島が広すぎても困る。
我が家(仮)に帰れなくなっても困るから。
森を抜けなんとなくで進んでいく。
道行く途中、何人か監禁者に遭遇したが皆が皆、疑心暗鬼というか暗い表情をしていた。
こんな状況で「おはようございまーす」って元気な挨拶をする者などいないわな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます