7月20日-3-
最後の質問と言われて大半の人が挙手していた。
『それでは
名前で男性とは分かったが違和感がある。
何故こんなピンポイントで人を識別出来ているのか。
これだけ大勢の人の中から、手を挙げている一個人を指名出来るものなのか?
監視カメラが・・・周りを見渡すと2つは確認出来る。
監視カメラのズーム機能とかでなんとかなるのかな?
まぁ・・・でも今はあまり考えても意味がないか。
『鶴里さん質問どうぞ?』
「私は警官だ!このような行為が犯罪と分かってやっているのか?」
警察の人まで拉致ってるのか?
本当に見境ないな。
『犯罪・・・とは限らないんじゃないかな?ここにいる人達全員がこの無名島で幸せに暮らしていけたらハッピーだと思うけど?』
なんか・・口調が変わったか?
今まで敬語だったのに、ここにきてなんか軽口になっている。
「今すぐ我々を解放して自首するんだ!お前がやっている事は人権にかかー・」
『解放する訳ないじゃん!』
背筋がゾワっとした。
口調がタメ口で先程までと違う違和感からか、この声の奴の本性が垣間見た気がする。
周りの人達も驚きを隠せず一様にざわついている。
『馬鹿だね?そんな事を最後の質問に使って。ここでは前職なんて無意味だよ?無名島では皆が皆、平等の幸せの島だよ!』
さっきも言ってたが無名島って今ここにいる島の名前なのか?
無名、、、無人島に連れてこられたとか?いや、それじゃ、ここはどこだよ?
脱出が出来る出来ない以前に、ここは日本かどうかも怪しいぞ。
『もうすぐ扉が開くから、そこから先は、皆さんお好きにして頂戴な!』
なんて投げやりなんだ。
こうなって来ると警官の最後の質問が何の意味も持たなかった事が分かる。
冷静に考えてみれば、注意事項を破った場合の処遇、腕輪に盗聴機が仕掛けられているのか、主催者側の目的とか色々と聞きたい事も出てくる。
まぁそんな事を答えてくれるかどうかも怪しいし嘘をつかれる可能性もある訳だけど。
「いずれ、お前を・・・お前達を全員逮捕してやるからな!」
警官が言ったが虚しく聞こえる。
現状・・向こうの奴らを挑発しても何の得にもならないのに。
この警官は正義感の強い男なのか、只の馬鹿なのか。
まぁどちらにしても今は扉が開いた先が気になるから気にしても仕方がない。
『お待たせしました。それでは、皆さん、新しい人生をお楽しみ下さいませー』
言うと同時に分厚い扉がゆっくりと開いていく。
自動ドアの様で左右の扉の前を監禁者が集まっている。
開いた先に辺り一面にヒマワリが咲いていた。
綺麗な景色と言えばそうなんだけど、そんな風景に見入っている場合じゃない。
明るい。今は・・昼頃かな?
多分、昨日の夜に拉致されて今が昼頃ではないかと推測出来る。
「あの、おじさん死ねば良かったのにね?」
突然小さな声で隣の女性に話し掛けられた。
隣にこんな綺麗な人がいたのかと今さらだが思った。
色素の薄い長い黒髪の女性。
何か見透かされたような瞳とどこか憐れむような微笑。
物騒な事を言う女性に僕は弱々しく返した。
「か、簡単に死ねとか言わない方がいいですよ?」
片手で口に手をおきクスッと女性が笑った。
挑発ともとれる馬鹿にしたような笑い方が勘に障る。
「君さ、あのおじさんが手を挙げた時ため息ついたでしょ?」
あのおじさんって、幼女を蹴飛ばしたおっさんの事を言っているのだろう。
見られていたのか。
まぁ・・隣にいた訳だから気づかれても仕方ないが。
「いや、ついてないよ?あの、おじさん、一歩間違えれば、腕輪が作動してたかもしれないから、無事で良かったとは思うけど」
嘘を付くメリットも無いけど咄嗟に否定していた。
ため息を吐いた吐いてないとか今はどうでもいいだろ。
一刻も早く外に出て周りを観察したいんだけどな。
「夏川君は偽善者なんだね?」
君から名字呼びになった。
質問の時に呼ばれたから名前を覚えられた訳か。
しかし初対面相手にそんな失礼な事よく言えるな?
ちょっと綺麗な顔だからって上から目線な感じが鼻をつく。
「偽善者か。まぁ勝手にそう思ってたらいいよ、じゃ!」
逃げるように早足で僕は離れた。
なんかこのままこの人と話してても無意味だと思ったし、またムカつく事を言われかねないからな。
狭くはないが人いっぱいの建物の中にいたせいか息苦しくあったし、早くこの建物から出たかった。
扉の側でいた人達はもういなくなっていた。
ポツポツと人がいなくなってはいたが、外を出て呆然としている者も何人かいた。
外の空気が気持ちいい。
空気が美味しいってこうゆう感覚なんだろうな。
「これからどうするのさ?」
振り向くとさっきの女性・・・いや、さっきの女が僕の後を追いてきていた。
半笑いで僕は答えた。
「いや、なんか用ですか?」
「んん~外の空気が美味しいねぇ?」
女は両手を上げ伸びをする。
「聞いてます?」
「今、何時なんだろうね?」
駄目だこいつ。質問を質問で返してくる、典型的な僕の嫌いなタイプの人間だ。
「質問を質問で返すのは嫌われますよ?」
やんわりと馬鹿にした口調で言った。
「それ、君もだよ?」
言いながら女は僕を指差す。
「あぁ、すいませんね。僕は、これから辺りを見てみます!空気は美味しいです!今が何時かは判りません!以上!さようなら!」
監禁されていたストレスもあったし、僕はイライラしていたので早口で答えた。
女は、またクスクスと笑っていた。
「怒ったら分かりやすいね夏川君」
「あの、あまり馴れ馴れしく呼ばれたくないんですけど?」
女は首を傾げた。
「えっ?でも、夏川君だよね?下の名前じゃないのに、馴れ馴れしいの?」
「だから、初対面の人に、タメ口で馴れ馴れしくされるのも嫌だし、第一、僕は、おま・・・あんたの名前も知らないからさ」
「タメ口だから怒ってるの?私の名前知らないから怒っているの?」
「いや、だからー・・・」
「私の名前は、
満面の笑みで女は・・・浅川が言った。
「あぁ・・・そう、浅川さん。では、ごきげんよう、バイバイ、さようなら!」
「悠里でいいよ!正護君!」
浅川は笑みを崩さず言ったが心底どうでも良かった。
第一・・浅川に対しての印象は良くない。
実際、偽善者と言われ、僕はその通りだと自覚しているからだ。
偽善者か・・・
人は誰だって偽善者だろ?
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