7月20日-2-
受け身が取れる訳もなく、蹴られた反動で幼女は地面に倒れこんだ。
「あっ、あぁ、ああああぁん」
幼女は余計に泣いていたが、すぐさま隣のお姉さんが抱き上げた。
「な、何してるんですか!?あなたは!!」
お姉さんが中年の男性を睨み付け叫ぶ。
勇気があるなぁ。怖くないのか?
パッと見、体格のいいおっさんに物怖じせず良く言えるなぁ。
「軽く蹴っただけやが?」
低い声で男は言った。威圧感があり先程のヤンキーとは比べ物にならない位、周囲を凍らせている。
「あっ、あなたねぇ?自分が何しー・・・」
『お静かにお願いします』
言葉を遮り放送が入る。
何となく分かっていた事だが、この放送の主は誰の味方でもないのだろう。
ごく一般的な思考の持ち主なら、おっさんのゲスな行為に注意があってもおかしくないのに、何も処罰もなさそうだ。
『それでは、これより注意事項を二点申し上げます』
周囲の喧騒を他所に放送は続く。
『一つ、この島を出ようと考えない事!』
注意事項と言う名の強制的なルールみたいなもんだろうか?
『二つ、監視カメラや、島の施設にある物を壊さない事!』
監視カメラがここを出たらいくつも設置されているのか?
いつ何時も見張られいるのか?
それを破壊するとやはり考えうる限りでは、僕達の腕に付いている爆弾が作動するとかなのか?
だけど普通に考えれば何故わざわざ両腕に?
あまり考えたくないが首輪にすれば一発で即死させる事も出来るだろう。
回りくどく両腕に設置する意味が分からない。そもそも爆弾なんてのはハッタリの可能性もあるが、今置かれた状況を俯瞰して考えても嘘とも思えないのがタチが悪い。
周囲の混乱が止む事なく放送は続いた。
『その二点を守って下さい!それでは質問のある方は挙手して下さいませ!』
はぁ?し、質問していいのか?
本当に答えてくれるのか?
ここに連れて来られた人達も探る様に周りを見渡している。
それから何人かが恐る恐る手を挙げた。
『それでは、
監視カメラの向こうから手を挙げた人が分かっているのか?
しかもフルネームで聞いてくる辺り、ここにいる全員の名前の個人情報も漏れている。
『どうしましたか?小田島さん?』
人垣で顔がよく見えないが、小田島さんであろう人物の震える声が聞こえてきた。
「こ、この島で、いつ、まで暮らせばいい・・のですか?」
声からして若い声だが、震える声に不安の影が見えた。
『ずっとです!』
「ず、ずっと・・・っていつまで?」
『ずっと!死ぬまで!未来永劫で御座います』
「ふ、ふざけるなあぁ!!」
瞬間、男の怒鳴り声が建物中に響き渡った。
見ると、ついさっき幼女を蹴っていたおっさんが叫んでいた。
『今は、小田島さんに聞いています。質問は挙手でお願いします』
「何を抜かしとんじゃ!?こっちは仕事もあるんやぞ?そななもん通る訳なかろうがぁ!?」
『質問は挙手でお願いします』
これは不謹慎ながらチャンスなんじゃないかと思った。
このおっさんがキレて向こう側の奴が爆弾を作動させたら、僕達全員に本当に爆弾が付いているのかどうかが分かる。
後・・爆発した時の威力。
半径どれ位までに及ぶとか、手が飛んでしまうのかとか、そこら辺のサンプルが欲しい。
このおっさんはあんな小さな子供も蹴り飛ばす様なクズだ。
だから正直、因果応報と思って実験台となって欲しい。
僕だけじゃないはずだ。ここから先の事を考えると、僕と同じ考えの人も居て不思議じゃない。
「屁理屈抜かしとらんと出てこいやぁ!?」
『質問は挙手でお願いします』
「これでえんじゃろが!?」
男が腕を挙げた。
『はい。では
僕は無意識にため息を吐いた。
おっさんが素直に手を挙げた事が意外にも思ったが、まぁ・・・正直に残念な気持ちにはなった。
冷静さを失ってあのまま威嚇してくれたら良かったのに。
「質問してえぇんか?」
半ば強引に質問権を取った男が言った。
『野田さん質問どうぞ?』
野田は監視カメラに向かって叫んだ。
「お前は何者なんじゃ?なんで、こないな事するんじゃ?」
方言だと思うけど案外的確な質問をするな野田は。
ただ・・・答えるとはとても思えない。
『我々は、貴方達に新たな人生を歩んで頂こうと思っている者です』
含みある物言いだけど、我々と言ったのは意外・・・でもないか。
馬鹿か僕は・・・
単独でこの人数を拉致るのは無理がある。
複数犯と考えるのがあきらかに普通だ。
それに肝心な所は隠すが思ったより答えてくれている印象はある。
くれているって言い方も変だが、これは僕も質問した方がいいのか?
まだ見に回って目立たない方が良いのか悩む所ではある。
「ほいじゃ、姿出さんかい?」
野田が脅す口調で言った。
正直今は頼もしいかも。色々と分かれば、後は爆破してくれとか思うけど。
『機会があれば、いずれ姿をお見せする事を約束します』
なんだろう。日本人特有の断る時の常套句に思えてならない。
機会があれば、考えておく、とか胡散臭い言葉で逃げてる様が窺える。
『他に、質問のある方はいませんか?』
そう告げると、さっきの小田島さんの時よりも多くの人数が手を挙げている。
集団心理にまんまと乗せられたかの如く、僕も手を挙げていた。
『それでは、
マ、マジか?
僕に質問権が来た。
いや、手を挙げたのは僕だが、、、
『夏川さん?』
本名で呼ばれると案外ドキッとするもんだなとか考えてる場合じゃない。
な、何か、質問を、えっとー、
『夏川さん?』
「あっ、えっと、ど、えっ」
うわ。噛んだ。恥ずかしい。
そもそも質問とかいっぱいあるけど混乱して頭が真っ白にー・・・
『冷やかしで、挙手するのは止めて下さいね?』
「は、はい。すびません」
うっ、何で僕は拉致って来た奴に謝ってんだよ。しかもまた噛んでしまったし。
周りでクスクスと笑い声が聞こえてきた。
こんな状況下で笑えるあんた達は大物だよ。僕もそんな人達に笑われて本望ですよ。
『それでは、次の質問者を最後にします。質問のある方はどうぞ?』
つ、次で最後かよ。
僕のせいで一つ質問が潰れたとかだったら皆さん本当にごめんなさい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます