あとがき

あとがき

 ――かばんさんは、キュルルちゃんを争点に、サーバルちゃんと対立する。


 これが私の十話視聴時点での、確信にも近いけものフレンズ2の展開予想でした。

本作「明き翼に願いを乗せて」は、その「仮定」を「前提」とした上で、当初予測していた物語を、十二話「おかえり」のプロットや表現に当てはめるように調整し、執筆した物語となります。このあとがきでは、私が当時その結論に思い至った根拠について、簡単に解説したいと思います。


 そもそもの発端は、前作主人公であるこの二人が、作中において「大人」として描かれていたことでした。かばんさんは言わずもがな、サーバルちゃんもまた、キュルルちゃんの、そして見方を変えるとカラカルにとっても「保護者」として振舞っていたように見えます。

 カラカル自身は自覚していないと思いますが、九話で姿を消したキュルルちゃんがイエイヌちゃんと遊んでいた時、怒りや嫉妬心や別れの寂しさに振り回されることもなく、それでいてカラカルに対して的確な助言と助け舟を出していたあたりからも、本作のサーバルちゃんは普段はおどけて道化を演じて見せるけれど(素の部分も大きいと思いますが)、その内面はカラカルよりも成熟していたのではないか、そう感じさせる描写を節々に感じました。対抗心が強く子供っぽい一面を持っていて、新しく出会った年下の弟分に背伸びをしたがる、そんなカラカルのプライドを立てていたような雰囲気も感じられました。

 その一方で、彼女は他のフレンズと比較しても比類なき強さを誇り、序盤から終盤まで、キュルルちゃんに迫る脅威を圧倒的なパワーで尽く粉砕していきました(流石に極端な大型セルリアンは対処不能でしたが……)。これは、視聴者の主観をキュルルちゃんに投影した時、本当に危ない時は必ず助けに来てくれる、子供にとって本当に頼もしい大人の姿を描いていたように思います。

 カラカルとの間に実力差があったのも、この方向性のためだと思います。思うに、本作の三人での旅は「母」「姉」「弟」の三人でのノスタルジックな小旅行をするイメージを膨らませた物だったのではないか、そう感じています。そう考えると、旅の期間が極端に短く、様々な交通手段を使い、最後には宿泊先のホテルにやってくると言う流れもまた、象徴的です。


 一方のかばんさんは、一期から変化した容貌からも明らかなように、前作から苦しい経験や悲しい経験を通して、精神的に成長し(摩耗と取っても良いかもしれません)、パークのフレンズに対して責任を持つ立場となりました。車を運転してパークを走り回り、自宅に研究所を構え日夜研究とセルリアン対策に明け暮れています。どこかズボラさを感じさせる面も垣間見せつつも、あらゆるフレンズの中で唯一パーク全体の事を深く考え、大局的な視野で動くキャラクターでした。

 サーバルちゃんの「家庭内の調和と平穏を保つ守護者」に対し、かばんさんは「家庭外の社会へ導く者」の役割が与えられていると思いました。前時代的な表現にはなってしまいますが、両者の象徴する記号を「母性」と「父性」の対比と捉えるのが、最もわかりやすいのではないかと思います。

 その視点で考えると、サーバルちゃんとカラキュル、かばんさんと博士助手の築いた関係性も、それぞれの性質の異なる「家庭」の有りようを象徴しているような所を感じます。それぞれの指向が「幸福」と「自立」で別れていたために、双方の「子供たち」が出会った時、海底火山の件では異なる性質を垣間見せました。知識水準や大人にとっての助かり度合いでは博士助手に、のびのびとした柔軟な発想力ではキュルルちゃんに軍配が上がります。夜中の海への冒険は、親に良い所を見せたい双方の連れ子が手を結び冒険したと考えると、ほほえましくもあり、ハラハラもする展開だったと思います。この辺りには、夏休みに親子で見るようなホームドラマの文脈を感じたりしました。


 さて、ではキュルルちゃんをサーバルちゃんとかばんさんの二人の間に置いた時、果たしてどうなるのか。それは、キュルルちゃんを導く大人として「幸せになれるようにのびのびと育てたい」サーバルちゃんと、「フレンズの社会で暮らしていけるように社会性を重んじさせたい」かばんさんの対立が予想されます。その争点は「絵」に集約され、「周囲のフレンズに迷惑をかける」絵の存在を認められるかどうかで、かつての大親友の衝突を描くのが、ひとつの山場となるのではないか、そう予想できました。

 これは、かばんさんがキュルルちゃんの絵を容赦なく「裁断」し、その絵をセルリアン騒動の原因と特定したことで、より確信に近づきました。かばんさんはキュルルちゃんの絵を、目的のためなら破損させることもいとわないのだ、と。そして、それはキュルルちゃんも含む「フレンズのための、大人としての判断」なのだろうと。

 時に、NewTypeの二〇一九年四月号、脚本のますもとたくや先生へのインタビューで、キュルルちゃんのスケッチブックは「二次創作の象徴」と言う意味を持つと書かれていました。オタクカルチャーの創作活動で夢を追った経験があり、かつ家庭の収入が父親に傾倒している家庭で育った方には想像しやすいと思うのですが、「絵を描いていくこと」を将来の目的に据えた時、そこに対して「現実的に職としてやっていけるのか」「社会的な立場はどうなるのか」を、最もシビアに判断して反対するのは、往々にして父親となる場合が多いものかと思います。かばんさんの立ち位置を「絵を描き続けることに反対する立場」とすると、その立ち位置は現実においても散見する、子供の自主性と社会との妥協点を巡る、家庭内の対立構図のメタファーとしていて、最終回でそれに結論を出すのではないか、そう言った視点で視聴を続けていました。

 そして、その最終的な着地点は、先に書いたNewTypeの二〇一九年四月号に掲載された、サーバルちゃんとかばんちゃんのイラストのようになるのだろうと思いました。「両者が和解して新しい関係を築く」形で、1期とはまた別の、子供たちを見守る大人同士での新しい信頼関係を形作るのだろう、と。「家とは何か」という疑問に対して、サーバルちゃんとかばんさんが手を取り、キュルルちゃんはそこに答えを見出す。それが私の思い描いていた最終話のストーリー概要でした。ここに掲載された二人の絵は、本当に魅力的で美しい絵でした。


 実際のけものフレンズ2の展開は、皆さまがご覧になった最終話の通りで、私の予想はあまり的中はしていませんでした。ただ、私は放送終了後も「やっぱり、サーバルちゃんとかばんさんは対立想定だったんじゃないかな…」と、感じていました。

 それは、十二話で感じた物足りなさや違和感(なぜ、かばんさんは皆を危険な状況に置いて行ったまま、絵をボートで安全地帯に運ぶなどと言う、遠回しでキュルルちゃんに甘い選択をしたのか、など)を埋めていくと、最終的に「かばんさんの対立」で解決可能な箇所が大量に見つかったためです。

 そして、悲しきかな、リアルタイムでこの作品を追っていた私は、この作品を取り巻く状況を、「かばんさん」に対する反響を、この眼でしっかりと見ていました。何を出しても不満を公言する人々の跋扈する中、いくら物語全体にメタファーやカタルシスが生まれるとは言っても、かばんさんをキュルルちゃんやサーバルちゃんにとっての「敵」「憎まれ役」「奪い去る者」として描くことを出来たか、プロジェクトの意志決定層を説得できるかと言うと、とても難しいだろうなと思いました。


 もちろん、「けものフレンズ2の本編は完全な既定路線」であり、これらの話は私の妄想や願望に過ぎない可能性の方が高いということも、重々承知しております。それに、一度世に出された作品である以上は、放送された内容が全てです。かくして、私の結んだ「仮説」と言う名の虚像は灰となり崩れました。そのこと自体に対する、私の正直な気持ちは「ヤバいあとがき」に記述したので、ここでは割愛させていただきます。


 ですが、私はこれが「思い込み」であったとしても、自分の胸中で像を結んだ「ストーリー考察」の結論を、誰かに知って欲しくて、仕方がありませんでした。故に、この物語は作られました。かばんさんをキュルルちゃんと真っ向からぶつけ、その上で本編最終話の趣旨をそのままに描く。そんな作品を作り出すことで、私の中の燻る思いを、灰になるまで完全に燃やし尽くしてやろう、そう思って魂を完全燃焼させました。

 この作品は、万人に勧められるものでは無いかもしれません。キュルルちゃんたちの旅路の正当な物語は、誰がなんと言おうと、正当な権利を持った制作陣が苦心して作り上げた「けものフレンズ2 第十二話『おかえり』」でしかありえません。

 ですが、私の考察と情念は、紆余曲折を経て、ツイッターのぼやきから、一つの小説へと姿を変え、ここカクヨムに出力されました。それがどれだけ不遜であっても、虚ろな幻しか作ることは叶わないとしても、私はキュルルちゃんやかばんさんたちを光る棒を振りながら応援した一人のファンとして、この小説を世に出さずにはいられませんでした。その不遜な行いを恥じる心と、その愛着を形にする行いを誇る心、二つを相反する思いを飲み込んだ上で、この作品もまた私のけもフレ二次創作の上でのひとつの足跡として残したいと思います。

 いつだって、ファンとしての私の願うことはただ一つ。「より面白いけものフレンズを」に尽きます。この燃え上がる願いを「明き翼」に乗せて、ネットの海の向こう側にいる誰かが、私の思いを、熱を、拾い上げてくれることを祈りながら、ここに筆を擱かせていただきます。


 ――紙飛行機は飛んで行く

 ――明き翼に願いを乗せて


CarasOhmi

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