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『ありがとうございます。』


申し出はとても有難いが、複雑な心境になった。本当は自分の力だけで例の令嬢を探したかった。けれど、自身は命を狙われている身なのだ。単独での行動はやはり厳しいのだろうか。


今後も似たような状況に晒される事を考えると、自然と嘆息してしまう。


しかし、フェンの心配そうな視線を感じて小さく首を振った。親切心で護衛を引き受けてくれた彼等に対して、少しでも疎ましく思った事に気付き反省した。


『わかりました、まだ色々と不慣れですので中庭まで案内いただけますか?』


「もちろん、任せてよフィオナ。」


フェンの背後から光の花が溢れだす。


「あ、また出しちゃった。

頑張ればどうにか隠す事が出来るんだけど…フィオナの前だとダメみたいだ。」


照れ臭そうに頭を掻いている今も、くるくると花が溢れ出ている。フェンの頬が薄らと赤く染まった。


「ちぇ…やっぱり隠せない。」


『ふふ、私としては何を考えているのか分かり易いので有難いですよ。』


「だったらいいや、このままで。」


『ふふ。』


中庭までの距離は案外遠くなく、入口のアーチまで歩いて10分程だった。白を基調とした門は繊細な装飾と生花に飾り付けられ、その奥からは沢山の赤い薔薇が咲き誇っている。


その圧倒的な花々に魅了されて、自然と1歩踏み入れる。が、それ以上は進めなかった。

木花の清々しい香りや、鳥達の囀りに気を取られてしまっただけでは無い。


そこはまるで、緑の迷宮だった。


「ああ、そうだ。ここちょっと厄介な所だったな。」


『や、厄介どころじゃない気がしますけど?!』


緑で出来た自然な壁が、眼前に広がっている。その様はまるで迷路だ。しかも、行き止まりだと思われる壁には木製の扉が設置されている。

扉には紋章のような模様が刻まれいた。


「これが厄介な理由だね。

ただの迷路だったら、空の上から令嬢を探せば良いけど…この扉はね、異空間と繋がっているんだ。」


『異空間…?!』


「うん、ほら見て。」


手始めにと、フェンは1番近くに設置してある扉に手を掛けた。薄緑色の大樹を連想させる紋章が僅かに発光する。

そして扉が開いた先は、なんと森の中。淡い木漏れ日が降り注ぎ、心地よい風がこちらにも流れ込んできた。


「この扉はどこかの森に通じてるみたいだね。それじゃあ次は…。」


『え、ま待ってください。

この庭にある扉は幾つあるのですか?』


「んーどうだろう。隠し扉も入れたら100以上はあるんじゃないかなぁ…ふわぁ。」


『隠し扉…。』


なんて途方もない…。

がっくりと肩を落としたフィオナ。流石、魔法を扱う学園なだけある。

こうなれば、片っ端から扉を開けて行くしか無いだろう。

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