1-2
『ありがとうございます。』
申し出はとても有難いが、複雑な心境になった。本当は自分の力だけで例の令嬢を探したかった。けれど、自身は命を狙われている身なのだ。単独での行動はやはり厳しいのだろうか。
今後も似たような状況に晒される事を考えると、自然と嘆息してしまう。
しかし、フェンの心配そうな視線を感じて小さく首を振った。親切心で護衛を引き受けてくれた彼等に対して、少しでも疎ましく思った事に気付き反省した。
『わかりました、まだ色々と不慣れですので中庭まで案内いただけますか?』
「もちろん、任せてよフィオナ。」
フェンの背後から光の花が溢れだす。
「あ、また出しちゃった。
頑張ればどうにか隠す事が出来るんだけど…フィオナの前だとダメみたいだ。」
照れ臭そうに頭を掻いている今も、くるくると花が溢れ出ている。フェンの頬が薄らと赤く染まった。
「ちぇ…やっぱり隠せない。」
『ふふ、私としては何を考えているのか分かり易いので有難いですよ。』
「だったらいいや、このままで。」
『ふふ。』
中庭までの距離は案外遠くなく、入口のアーチまで歩いて10分程だった。白を基調とした門は繊細な装飾と生花に飾り付けられ、その奥からは沢山の赤い薔薇が咲き誇っている。
その圧倒的な花々に魅了されて、自然と1歩踏み入れる。が、それ以上は進めなかった。
木花の清々しい香りや、鳥達の囀りに気を取られてしまっただけでは無い。
そこはまるで、緑の迷宮だった。
「ああ、そうだ。ここちょっと厄介な所だったな。」
『や、厄介どころじゃない気がしますけど?!』
緑で出来た自然な壁が、眼前に広がっている。その様はまるで迷路だ。しかも、行き止まりだと思われる壁には木製の扉が設置されている。
扉には紋章のような模様が刻まれいた。
「これが厄介な理由だね。
ただの迷路だったら、空の上から令嬢を探せば良いけど…この扉はね、異空間と繋がっているんだ。」
『異空間…?!』
「うん、ほら見て。」
手始めにと、フェンは1番近くに設置してある扉に手を掛けた。薄緑色の大樹を連想させる紋章が僅かに発光する。
そして扉が開いた先は、なんと森の中。淡い木漏れ日が降り注ぎ、心地よい風がこちらにも流れ込んできた。
「この扉はどこかの森に通じてるみたいだね。それじゃあ次は…。」
『え、ま待ってください。
この庭にある扉は幾つあるのですか?』
「んーどうだろう。隠し扉も入れたら100以上はあるんじゃないかなぁ…ふわぁ。」
『隠し扉…。』
なんて途方もない…。
がっくりと肩を落としたフィオナ。流石、魔法を扱う学園なだけある。
こうなれば、片っ端から扉を開けて行くしか無いだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます