1-3
次に近い扉へと足を向けた時、フェンの気が抜けた声が聞こえてきた。
「ふわぁ…。」
『眠たい…のですか?』
そう言えば中庭に近付くにつれて欠伸が増えていた気がする。重たそうに目を開き、しばしばと瞬きをしている姿はちょっと可愛い。
「…ん。」
彼の薄緑を帯びた金髪が風に靡(なび)いて、ふわふわと舞った。目元まで覆っていた前髪も共に風に攫(さら)われて、金眼が垣間見える。
…綺麗。
思わず見とれてしまっていた。ただ眠気を堪える為に目を擦る仕草でさえも、何故だか気になってしまう。
「どうかした?フィオナ?」
『あ、いえ!
無理に一緒に探さなくても大丈夫ですよ?』
「…無理はしてない。」
慌てて後退ると、その行為にムッとしたのか未だ繋いだままの手を強く握り返してきた。
「この庭に来ると妙に落ち着いてしまってね、眠くなってしまうんだ。
だからよくここで昼寝してる。」
そう言うと、今度はぐいぐいと手を引っ張り緑の迷宮を突き進んで行く。
『ま、まって…!』
「ちょっとだけ休憩しよ。」
通い慣れている為か、その足取りは正確だ。フェンに導かれて迷いなく右へ左へと進んで行くと、突然視界が変化した。
「ここ、お気に入りの場所なんだ。」
薔薇の壁だらけだった風景が一変し、桜の花弁が舞う草原が広がる。そよ風が優しく駆け抜け、柔らかな日差しが2人を照らした。
数メートル先に見える小丘には大きな一本桜が立っており、寝転ぶのに丁度良い大きさの木陰を作っている。何となく、あの木陰で昼寝をすると気持ち良さそうだと考えてしまった。
「この場所は隠しルート。正確に道を覚えておかないと来れない場所なんだ。
そしてね、あれは隠し扉。」
『扉?一体何処に…。』
見渡す限り草原と青空なのだが、桜に近付くに連れて彼の言葉を理解した。
『もしかして…。』
「うん、そうだよ。」
フェンは満足そうに頷いた。
木の根元に、僅かな空間の捩(ねじ)れが見える。遠くからだと景色と一体化して気付かなかったが、丁度人1人分が通り抜けられるであろう枠線が見える。
直ぐ側まで来ると、それは透明色の扉だった。
「開けてみて。」
『は、はい。』
驚き過ぎてついて行くのがやっとだが、意を決してドアノブに手を掛ける。ガラスを触った時のような、無機質で冷たい感触が伝わった。
『…凄い!』
扉の先は、大木が立ち並ぶ森だった。太く大きな幹が弧を描き、ドーム状の空間を生み出している。葉と葉の間から漏れ出た陽の光は、遥か上空で遮られており届いていないが、その代わりに、枝の各所に設置されたランプが地上を照らしていた。
ランプはキノコの形を模しており、色取り取りだ。仄かな明かりが落ち着いた雰囲気を作り出していた。
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