4-2

「うん、いいよ。

フィオナは俺の妹ね。」


はにかみながら微笑んだフェンは、ふらつきながらも彼女の方へ歩み寄り手を取った。


「よろしくね、フィオナ。」


そう言って一層笑みを深めた彼の背後からは光の花が溢れ出す。花はクルクルと踊り、その動きだけでフェンの心情を測ることが出来た。


『はい、よろしくお願いします。』


吊られて笑みになったフィオナは自然とお礼を述べる。そして気付いた。


『あ、私…。』


声が出せる。


思わぬ回復に反射的に学園長の姿を捉えると、大袈裟に肩を竦められた。眉をハの字にしたその表情は、呆れと蔑みを含んでいる。


『気付いてなかったのか?俺自らが治療してやってんだぞ、それくらいは回復して当然だ。

…あとそうだな、起き上がれる筈だ。』


『…!』


「本当かい?!この日をどんなに待ち焦がれていたことか!」


透かさず反応したロドフはたったの数歩でフィオナの側へ近づくと、フェンとは反対側の手を取った。


「安心して、ね。

僕の身に委ねて起き上がると良いよ。」


寝たきりの状態の身体にもう一方の手を差し込み、うっとりと微笑んだ表情からは安心どころか危険しか感じない。

ロドフに抱き込まれた様な体制となったおかげで、さらりと垂れた銀髪が彼女の身体に降り掛かり、大袈裟に開かれた胸元からは逞しい胸筋が見えた。それが更に間近に迫って来て思わず目を逸らしてしまう。


「ロドフ、お前はまたそんな風に。フィオナ様が困っているだろう?」


レオは肩を竦めてやれやれと首を振ると、足早に彼女の下に近寄った。ロドフをひと睨みし、差し込まれた方の手を掴み引っこ抜く。

続いてこちらに向き直るとフィオナの頭に手を置いた。


「傷が癒えて良かった。一時はどうなるものかと心配しましたが…。」


ポンポンと優しく撫でる手付きは心地良い。


『助けていただいてありがとうございます。』


「いえいえ、こうして言葉を交わす事が出来て嬉しいです。」


レオはにっこりと微笑むと、頭を撫でる手をそのまま額に移動させた。前髪を掻き上げられ、そして続いた柔らかな感触。

唇で触れられたのだと理解するのに数秒掛かった。


「レオはさあ、自覚が無いから本当タチが悪いよねえ。」


霧散して次に彼女の目の前で形を成したロイは、満面の笑みでレオとロドフを交互に見比べた。これも演技なのかは分からないが、少なくとも笑顔とは真逆の事を考えているに違いない。

貼り付けたその表情からは心から笑っているようには到底思えない。


「なるほどねえ!それじゃ、面白そうだし僕も参加しようっとお!」


レオとロドフを見比べて何かを察したロイは、2人に見せつけるようにフィオナの耳元まで口を寄せた。手を当て誰にも聞こえない体制を取ると、以前に聞いた事のある青年の声色で囁く。


「俺も君のこと、気に入ったしね。」


頭中まで響く低音ボイス。そのせいか、動く筈の身体がまた麻痺を起こしたように固まってしまった。


「くく、良い表情。」


ニヤリと口端を吊り上げこちらを品定めする視線。

それがふと、違う方向を向いた。


「ぷは、そうかクロードも、ね。」


「はぁ?意味がわからないな。」


そう言いつつ彼女の方へゆっくりと近付いたクロードは、彼女の髪を一房手に取ると徐に口付けた。そのままロドフ、レオ、ロイ、フェンさえも睨み付ける。まるで牽制するかの行為。学園長は堪らず吹き出した。




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