4-1
「天族」その言葉が学園長の口から出た途端、一斉に彼女へ視線が集まった。
未だ寝た切りの状態でこちらに視線を返して来た彼女。戸惑いつつ返されたそれは、自身の事を分かっていないと見受けられた。外傷は塞がり、顔色も良くなったように見えるが「呪の類」の傷が影響しているのだろうか。
「もしかしてと思っていたけれど、やっぱりね。
でも天族、別名アンジュは遥か昔に滅びたと聞いたんだけど…本当なのかい?」
文献で当たりを付けていた彼らは得心した表情を作るが、それでも腑に落ちない所はあるらしい。
ロドフの発言にレオも続けた。
「学園の書庫で見つけた文献では、記載されていた天族の特徴と彼女は確かに一致していました。
しかし、いつ刊行されたものか分かり兼ねますし、信憑性もあるものかどうか…。」
現につい先程、文献で積み重ねてきた知識は頼りになら無かったのである。
「今となっては文献外での確かめようは無いのかもしれませんが…。
フェンの様なフェティート、つまり混血種の可能性は無いのでしょうか。」
そんな信用し難い様子の彼等を、学園長は視線だけで一蹴した。
『この俺が、そうだ、と言ってんだ。
こいつ…いや、フィオナは天族だ。間違いねーよ。』
全く理由になっていないのだが、有無を言わせぬ態度に全員は黙り込んだ。強引だ、と言い掛けたロイも呆気なく同じように一蹴されて終わる。
それよりも…学園長の言葉を遡ったクロードは不可解な言葉を思い出した。
「フィオナ?」
『ん?ああ、さっき言ったろ?
こいつの名はフィオナだ。』
「何故、学園長が知っている?」
『……やべ。』
咄嗟に呟いた言葉を5人が見逃すはずが無かった。
青の小さな妖精が、またも学園長の耳朶を掴み大きく揺さぶる。
『こんの、あんぽんたあああん!』
『だーーーうるせえ!とにかく!
妖精族特有のご都合主義、と言う事にでもしといてくれ。
天族は滅びてはいねー。別次元の世界に身を移していたんだ。
発端と原因はこの世界の正しい歴史を学んでいればわかんだろ?』
その問いかけにそれぞれが苦々しい表情を浮かべると、学園長は満足気に頷いた。
『おーきちんと学んだみてーだな。
察しの通り、フィオナは別次元、異世界から落ちてきた者だ。
どうやらちょっとした紛争に巻き込まれたみてーでな。』
次に剣を携えたレオ、短剣を忍ばせているロイの順に流し見る。
『傷を見ただろう?戦い慣れている奴なら気付いた筈だ。
こいつの傷は全て致命傷。殺しに掛かられた証拠だ。だが奇跡的に生き長らえた。』
そして視界の端で彼女を捉えた学園長は、僅かに眉を下げた。
『つまり、フィオナが生きていると不味い状況が相手方にあるらしい。』
だから、と一呼吸置き今度はこの場に居る全員を見渡した。
『学園の結界を今一度強化し、フィオナを“転入生”という名目で匿う事にする。種族はフェティート、あーフェンと言ったか?
お前の血縁者という設定にしておくか。』
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