2-1

「次は僕だねえ!」


クロードによって押さえつけられていたロイは、自身の体を霧散させてソファーの横で再び形を成した。「スルリと逃げられた」彼に対して、クロードの眉間に数本の皺が浮かび上がる。


その様子を尻目に、彼はニコニコ顔でスキップしながら彼女の方へ近づいて行った。


「僕はロイスウィル・ティモン・グリエルムス。ロイって呼んでねえ!

グリエルムス王家の第2王子で、種族はクラルテ!

うーんと、見た通り形成変化が得意な種族でね。一応、希少種なんだあ!」


満面の笑みでそう告げると、またも身体を霧散させる。次の瞬間青年の姿になった彼は、顔を彼女の耳に寄せて低くなった声色で囁いた。


「因みにこっちの‘形’が、俺の本当の姿。

あちらの方が何かと都合が良くてねえ…。」


喉の奥でくつくつと笑う。顔が近くなった事で気付いたが、左目の端に小さな黒子が2つあった。珍しいなと思う間も無く、続いて囁かれた事実に彼女は驚く。


今の‘姿’はまた別なのだという。

言い知れぬ不安と気味の悪さがふつふつと湧き出でて、怪我さえなければ身震いしていただろう。

それくらい、クラルテという種族の彼は得体が知れなかった。


「最後に、フェンだねえ。」


彼女が抱いた不安を知ってか知らずか、青年の‘形’のロイは不敵な笑みを向けた。次に深緑のマントに包まれたフェンを見て愉快そうに笑う。


「もう、フェン!大事な場面なんだから、起きなよお!」


フェンの横に瞬間移動したロイは、深緑のマントに包まれた彼を揺さぶった。ロイ以外の4人の彼等は、青年の‘形’をした彼の方こそが本来の‘形’だと知っているのだろうか。

不可抗力とはいえ知ってしまった彼の事実。彼女は少年の姿形に成り、今尚フェンを揺さ振り続ける彼を盗み見た。戯けた口調の彼は一切の隙を見せていない。そして恐るべし、その演技力。


「…う…ん?ロイ?…何か用?」


ロイの揺さ振りに気付いたフェンは、マントに隙間を作りその間からチラリと顔を覗かせた。ウェーブが掛かった白に近い金髪がさらりと音を立て、金色の瞳が儚げに揺れる。その姿は彼に性別という括りが必要なのかと疑うほど神々しい。髪色と同じ色をした睫毛は不安気に小さく震えているが、それはその美しさを助長させている様にも見えた。例えるなら絶世の美女、もしくは女神、という方がしっくり来る。


「彼女がやっと意識をとり戻したんだあ。

だからほら、一応初対面でしょ?

自己紹介しなくちゃあ!」


「…そうなの?」


フェンは僅かに両目を見開き、視線をベッドの方へ向けた。彼女と目が合うとふわんと微笑む。文字通り花が綻ぶ様なその笑顔は場を和ませた。

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