序章-2 自己紹介-

「改めまして。

僕の名はロドストファー・ルディ・パトリック。

…パトリック王家の第3王子とまで言っておこうか。

親しい者にはロドフと呼ばせている。君にも是非、この愛称で呼んで欲しいな。」


ロドフは美しい銀髪をさらりと搔き上げると、右手を顔の横に立てた。そうして自在に伸び縮みする爪を彼女に見せ付ける。


「さっきの行動で気付いたかも知れないけど、僕はセリアンスロゥプ。獣人さ。」


けどね、とここで息を吐く。


「獣化した姿は嫌いでね。あまり人に見せなく無いんだ。」


だからこれで勘弁してね、と首を傾げ両目を見開いた。するとバイオレットの瞳が見る見る金に染まり、瞳孔が細くなる。続いて犬歯が発達し、長く鋭く伸びた。


「ふふ、驚いた?」


同じ様に目を見開いた彼女の反応に満足し、ロドフは一歩後ろに下がる。そして隣に立つクロードへ目配せした。彼はその意図を察すると頷き、ロドフとは反対に彼女の方へと一歩進み出る。


「クロスフォード・ユリウス・メルキオール。

…クロードと呼べ。」


彼は仁王立ちの姿勢でそう言うと、はい終わり、と固く口を閉ざした。


「クロードはドラークだよお!」


「おい。」


「龍のことだよお!」


「おい!」


「第1王子なんだあ!」


「おい!!」


透かさず口を挟んだロイは、嬉々として彼の情報をポンポン暴露していく。尚も口を開いた姿を見て、クロードは慌てて押さえつけた。


「だってクロードが意地悪するからさあ!」


ロイは悪びれる様子も無く、寧ろ代わりに説明してあげたんだ、と胸を張る始末だ。対して心底迷惑そうな表情を浮かべたクロードは、更に彼をソファーに沈めた。メリメリと、ソファーから悲鳴が上がる。


「ふん、お前の悪い癖だな、何でも力で捩じ伏せようとする。」


その光景を終始見ていた彼は溜息をついた。彼女は幾度も両目を瞬かせる。今聞いた言葉が本当に彼の口から出た言葉なのか信じられない。方角的にレオで間違い無いのだが、吐き捨てる様に紡がれたそれは、彼の爽やかな風貌と一致しない。


しかし言葉を向けられた本人、クロードは確実に聞こえた筈の彼の言葉を無視した。その反応に納得がいく訳もなく、レオは片眉を吊り上げて両拳を作る。が、大きく息を吐いた。


「すまない。お見苦しい所を見せました。

私はレオナルド・ライアン・メイナード。レオとお呼びください。」


仕切り直す様に一度咳払いをすると、優しく微笑む。


「私は魔人、ウォーロックと呼ばれる種族です。

メイナード王家の第1王子ですが、この様な肩書きに気にせず接してくださると嬉しいです。」


キラキラとしたオーラにやっと合点が行った。優雅に礼をするレオは、言葉通り王子の気品を漂わせる。

努めて王子然とした様子も無いことから、天性の才能から為しているのかと、そしてやはり彼に悩殺された女性の数は計り知れないと彼女は胸中で苦笑した。

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