1-6
「ねぇ、いつまでそうしてるの?」
突如、ロドフの背後に霧が掛かった。若干の冷気を纏ったそれは、徐々に人型を形成していく。
「この行為に意味が無いことくらい、ロドフならわかっているでしょ?」
人型を成した青年は、こてりと首を傾げた。ふわふわな赤髪に真っ黒な瞳、黒装束。特徴は全て先刻までのロイに当て嵌まっている筈なのに、今の彼は一回り成長したような一風変わった姿をしていた。
声も、ぐっと低くなり先程のロイが少年なら今のロイは青年といった出で立ちだ。どちらが本来の姿なのか。そしてもしかすると。
密かに視線を張り巡らせた。この場にいる皆は何者なのだろう?
加えて彼等は彼女自身の事も自分以上に知っているようだ。…かなり複雑だが。
ロイ(おそらくロイ本人だろう)は、ロドフの背後にピッタリとくっ付いたまま微動だにしない。ロドフのように爪を立てるでも無いし、何か武器を取り出す素振りも見せない。ただただ、突っ立っているだけだ。
けれど僅かに張り詰めた緊張感から、何も仕掛けていない訳では無さそうだった。
「ふう、君は本当にクロードが好きなんだね。」
ロドフは嘲笑うと、ゆっくりと自身の伸びた爪を下ろした。瞬時に短くなった爪先を見て、益々先程の疑問が深まる。
クロードは爪から解放されても平静だった。元より恐怖なんて抱いて無かったのだろう。横目でロイと視線を交わした。
「よせ、ロイ。話を進めるぞ。」
「…わかったよ。」
渋々頷くロイは一瞬だけ消える。次に現れた霧からは、少年のロイが形成された。そのままロドフから数歩下がり、近くにあった1人掛け用のソファーに腰を下ろす。
「でも僕は、出来れば傷が癒えるまでは言わなくてもいいと思うなあ。
だってさあ、やっと今日意識が戻ったばかりなんだよ?」
暗に彼女にはまだ理解能力が伴っているのか厳しいでしょ?ねえそうでしょう?と、瞳を揺らし、口を尖らせてクレアに視線を向けた。
これにはクレアとレオも頷いた。
「そうねえ。急ぐものでも無いし。」
「同感です。彼女の回復を待ちましょう。
こちらから一方的に、というのも忍びないですし、彼女からの意見も聞きたい。」
「そうかい…それじゃ、せめて。」
ロドフは肩を竦めて取り敢えずは妥協の意思を見せると、彼女に向き直った。その瞳は既に真剣味を失せており、色気を纏ったものに戻っている。
そしてゆったりと優雅に腰を折ると、視線だけをこちらに向けてウィンクした。
「僕達の自己紹介といこうか。」
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