1-5

痛いと言う割に、ロドフの表情は涼しいものだった。クロードを流し見ると、瞬きをする間にその場から消えた。


消えた!?


あり得ない光景を前にして再度瞬きをする。すると今度は先程以上の光景が、眼前に繰り広げられていた。


「ここで騒ぎを起こせば、どうなるか知っているだろう?」


ロドフはクロードの背後を取り、鋭く伸びた爪を彼の首に当てがっていた。


「こんな脆い場所に僕達を押し込めるなんて、気が知れないよね。

友好の証とでも言いたいの?自分は1番安全な場所にいて?」


そして特に君は可哀想だよね、とクロードに囁く。

何の事を言っているのか今の自分には情報が少な過ぎる。一体、誰に対しての言葉なのか。彼らは何を抱えているのか。けれど、ただ聞くことに徹した。


「いつかこの関係性が危うくなるとは思っていた。まさかこんな形になるとは予想していなかったけどね。」


ロドフはチラリと彼女に視線を投げやると、眉を下げた。その次に紡ぐであろう言葉を予想して、レオが声を上げる。


「よせ!彼女は関係ないだろう!」


「はは、レオ、君は優しいね。彼女が傷付かないように慎重に言葉を探していたんだろう?

でもさ、彼女はこの世界に来てしまったんだ。その時点で関係はあるよね。」


「しかし!」


未だにロドフに爪を向けられたままの状態で、クロードが口を開いた。


「彼女は巻き込まないで欲しい。」


「それは君のエゴじゃないか?最悪の状態になる前に、予め彼女に筋を通しておいた方がいいんじゃない?」


初対面で飄々(ひょうひょう)とした雰囲気を醸し出していた彼とは大きく違う。もしかすると本性はこちらなのかも知れないと思うほど、ロドフは真剣だった。バイオレットの瞳が深みを増している。その場にいた誰もが反論出来ず、視線を下に向けていた。


「最悪の状態」というものがどうにも恐ろしいのだが、彼らは何を危惧し、彼女に遠慮しているのか。不可解なものばかりで憤りすら感じる。改めて声を上げられず、身体の自由が効かない事に虚しくなった。


「だとしても、今はまだ早いんじゃない〜?」


今まで黙って聞いていたロイが動いた。彼も瞬時にして身体が消える。

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