健気な妹




 お兄ちゃんがいなくなって5ヶ月が経った。


 今はミルさんと共にドルドの街の西側にあるルージクの街へ来ていた。

 現在、ミルさんはお兄ちゃんの噂がないか、街の人やギルドなど情報が長けている場所へ聞き込みに回っている。


 今滞在しているルージクの街は、ドルドの街と比べてもやや小さい。

 北側に行くともっと小さな街、いや村がある。

 村は一軒だけの宿とギルドがあるだけだ。


 もしも、お父さんやお母さん、他の誰かが私達を追っていたとしたら、やはり小さい村よりも街の方が隠れやすいし、見つかりにくい。


「クララちゃんや。色々聞いてみたよ。······だけど

、それらしい噂は無いねぇ」

「そうですか······やっぱりそう簡単には行きませんよね」

「そうさねぇ。でも、1ヶ月前にドルドの街で一悶着あったようだよ」

「なにかあったんですか?」


 そう聞くと、ミルさんはドルドの街がある方向を向きながら続けた。


「ああ、ドルドの街の裏路地で、大規模な爆発があったそうだよ」

「大規模な爆発……ですか?」

「ああ、その大規模な爆発には、魔術の痕跡が残ってたそうだよ。あの当たり一面は吹き飛んで、裏路地の住人もほとんど死んだとさ」

「も、もしかして、それって火の魔術じゃないですか!?」

「よく知っていたねぇ。確かに火魔術の余波を受けた家は火事になったそうだよ」

「お兄ちゃん······」


 ミルには聞こえないほど小さい声で呟いた。

 やっぱり······もしかしたらお兄ちゃんかもしれない。

 あの時、ドーブルに襲われたときの森と、聞く限り特徴が酷似している。

 あんな魔術を使えるのはお兄ちゃん以外に知らない。


 まだ、お兄ちゃんって決まったわけじゃない……っけど、お兄ちゃんだと私は確信している。


 でも、ミルさんが言うには1ヶ月も経っている。

 流石にドルドの街にはいないと思う。


 会いたいな。

 お兄ちゃんにギューって抱きしめてもらいたい。

 そしてらお兄ちゃんに何があったのか聞きたい。


「まぁ、ゆっくり探していくさね。クルルちゃんもできた子だよ。最悪な自体は回避してるかもねぇ」

「そうですね······お兄ちゃんは大丈夫、信じています!」

「健気だねぇ。歳のせいか涙脆くてしょうがないよ、まったく」


 ミルはそんな私の様子を見て、目に涙を貯めながら頭を撫でて上げていた。


「さて、クルルちゃんを見つけに行こうかねぇ。こうなったらあたしのコネ全部使って探してみせるよ! まずは、拠点と次の街に変えるよ」

「はい! ありがとうございますミルさん!」


 そして、私達は歩き出す。次の街へ向かって。




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「ケケケッ! 失敗したな。あんなことになるとは思わなかったぜ」

「全て上手くいってはつまらんだろう」

「ま、そのとおりだな! ケケケッ!」


 1ヶ月前。

 暗い暗いある場所にて、大きな男と小さい男が喋っている。

 2人の共通点はどちらもどこにでも売っているローブを着ているということ、頭には他種族には付いていない角が生えていた。


 小さい男は舌を出し、気持ち悪い笑みを浮かべて、大きい男に話しかける。

 一方の大きい男は黙って話を聞きながら、たまに相槌を打つだけに留まる。

 そんな対象的な2人の足元には冒険者の死体がこれでもかと積まれていたのだった。



 2人が話す声は闇へ闇へと消えてゆく。



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異世界は理不尽です ~転生して男の娘なった俺は拷問を受けたので闇に堕ちました~ もくめ ねたに @mokume-netani

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