幕間その1 少女は感嘆する

「本当に討伐しちゃったよ、ヒロ……」


 戦闘中ヒカリは遠視の魔術で灰色のコートに身を包んだ黒髪の少年の戦いぶりを見ていた。

 あの少年がいつ危機に陥ってもすぐにサポートができるようにするためだ。

 自身が強引に受けた依頼で死なれてはあまりにも寝覚めが悪い。


 だがその必要はなかった。


 あの少年は一体一体が己より強大な魔物を五体相手にしてそれでも尚、討伐してのけた。


 死と隣り合わせの戦いで少年は一切の無駄なく立ち回り、敵の攻撃を紙一重で避け、最初の【サンダーランス】を除き規模も威力も乏しい初級魔術と異能の剣、そしてちょっとした小道具を駆使してブラックベアを屠り、結果だけ見れば無傷で勝利を収めた。


 念の為にもう一度言うが、あの少年が相手にした五体の魔物は一体一体が少年よりも強大だった。決して少年の方が強かったわけではない。

 いや、それどころか少年よりも強い者なんてあらゆる生物を含めて腐るほどいる。

 現にあの少年は不意打ちの【サンダーランス】が完璧に決まったにもかかわらず仕留めきれなかった。少年が強者だと言うならばあれで仕留められた筈だ。その事実が少年は弱者だと示している。


 普通はこれだけの力の差を目のあたりにしたら絶望するだろう。恐怖もするだろう。或いはそれすらも諦めてしまうかもしれない。


 そんな状況で、それでもあの少年は立ち向かった。それを当然といったふうに。


 一見それは死に急いでる様に見えた。または思考停止しているようにも、戦に飢え命をなんとも思わない狂戦士バーサーカーようにも見えたかもしれない。


 けど少年は決して考えることをやめず、勝利を諦めず、命を手放さず、ありとあらゆる可能性を模索し、様々な小細を弄し、生にしがみつき、そして勝利した。


 ヒカリは疑問を抱かずにはいられなかった。

 これほどの戦力差を埋めるには一体──


(──どれほどの経験をヒロは積んだというの?)


 だがもっと不思議なのは少年が背負っているあの剣だ。いまさっきの戦いで一度も振るっていなかった。


 あの少年の場合異能力で武器をなんとか出来るようだが、それだとあの剣を持ってくる必要はないように思える。かといってあの少年が使う必要のない武器お荷物を背負って戦うとも思えない。


 だというのなら一体、あの剣は。


(何のためのものなんだろう……?)


 ヒカリは戦いながら首を傾げた。

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