第11話 少年は狩り終える
「風よ──」
ヒロは可能な限り早口で呪文を唱えながらポーチから再び成功の鍵──拳銃を取り出す。
二体のブラックベアはヒロが詠唱を始めた瞬間には走り出そうとしていたがヒロはに引き金を二度引く。そして二度銃声が鳴り響く。
拳銃から放たれた二発の弾丸がギリギリのところで当たらずブラックベアを牽制する。
ブラックベアは恐怖を感じたのか僅かに
(よしッ……!計画通り!)
ヒロはブラックベアが思った通りに動いたことに対して心の中でガッツポーズする。
ヒロが先ほど弾をはずしたのは偶然などではなく意図的によるものだ。というか決してこの距離で弾丸を当ててはいけなかったのだ。
そもそもの話、拳銃は異能力や魔術などに比べ威力が弱く、人間が相手ならともかく人間よりも強靭な肉体を持っている殆どの魔物に対して使ってもダメージを与えることはまず出来ない。どうしても銃で戦いたければ拳銃など使わず狩猟用の
「──、疾風となりて、駆け抜けろ!」
ブラックベアが萎縮している間にヒロは詠唱を終え魔術を発動する。
攻撃系・風魔術【ゲイルウェイブ】──人を軽く吹き飛ばす威力の強風をを発生させる魔術──をブラックベア達の足元、その少し手前に放つ。
それなりに大きな音が響く。
ブラックベアとヒロの周辺にまで砂埃が広がり、砂だけではなく小石なども宙を舞う。
(っぶね、と……)
ヒロは自分の顔面に飛んできた小石を反射的にキャッチする。
「グルァァァ!」
その間に片方のブラックベアが雄叫びをあげ、再度突撃してくる。ヒロはそれを確認して魔術の詠唱をはじめる。
「光よ、我が姿を虚空に、映し出せ」
その魔術が発動した直後猛スピードで接近して来たブラックベアの爪がヒロの姿を切り裂く。
だが、
「グルァ?」
ブラックベアの口から出たのは勝利の喜びや安堵などではなく、なんのことは分からないとでも言いたげな声だった。
その爪は確かにヒロの姿を切り裂いていたが全くの手応えがなかった。いや、正確には姿だけでそこに実態はなかったというべきか。
「こっちだ」
ブラックベアの背後から声がした。
ブラックベアは慌てて声のした方向に振り返ろうとするが既に遅い。
声がすると同時に何もない場所から現れたヒロが異能力の剣でブラックベアの背中を
初級とされる幻惑系・光魔術【フェイクビジョン】。これは光の屈折率を操作することで姿を隠し、同時に本体がいる場所と違うところに姿を映し出す初級の魔術だ。一見凄そうに見えるがあくまでこの魔術は姿を別の場所に映し出すだけで視覚以外の感覚をごまかすことは出来ない上にそんなに離れた場所に幻影を映し出すことはできない。本来なら五感が優れているブラックベアの背後を取ることは不可能だっただろう。
だからヒロは砂煙を起こした。それなりに大きな音をたてた。ブラックベアの五感を妨害して背後を取るために。五感を妨害された状況下では知性の乏しい魔物に偽りかどうかは分かりようがないのだから。
ブラックベアはすぐに暴れだそうとしたがそれよりも先に力尽き倒れる。
ヒロはソレが息絶えたと判断して最後の一体を見る。
そしたら最後のブラックベアは炎を吐こうとしていた。このウザったい砂煙とヒロをまとめて吹き飛ばすつもりなのだろう。
(よかった、手間が省けた……)
ヒロは内心ほくそ笑みながらポーチから取り出した物をブラックベアに向けて投げつける。
「地よ──」
同時に先のことを見据えて呪文を唱えだす。
ブラックベアは炎を吐こうとするのを僅かに遅らせ、自分に飛んできた物をはたき落とす。爆晶石と思ったのだろう。だがそれは爆晶石などではなくヒロが先ほどキャッチしていたただの小石だった。そもそもヒロは同じ手段を安易に使用したりしない。小石を投げたのは、小石を爆晶石と誤解した場合避けるなり叩き落とすだろうから呪文を唱えるための時間を僅かに稼ぐことが出来るかな、と思った。ただそれだけである。
「──、
ブラックベアは小石を叩き落としたあとすぐに炎を吐こうとするよりも僅かにはやく地形操作系・土魔術【ソイルウォール】の呪文を唱え終える。
直後ブラックベアを覆うように厚さ五センチメートル程の土の壁が築かれていく。
ブラックベアが炎を吐くのと土の壁が築かれたのはほぼ同時だった。
もう何度目かわからない(この個体ははじめてだが)ブラックベアが叫びが響き渡る。恐らく自らの炎で全身を焼いてしまったのだろう。ご愁傷様である。
数秒後、土の壁が崩れ出し全身をくまなく
(あれでも死なないとかしぶとすぎだろ)
ヒロは生きていること確認するととどめを刺すために瀕死のブラックベアに向かって全力で走っていき、そしてその心臓に左手の、異能の剣を全走力、全体重を乗せて突き刺した。
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