第10話 少年は魔物を狩る-下-

 ブラックベアのうち三体を討伐してもヒロは油断していなかった。


 確かに五体いるうちの三体を、それも一体を確実に討伐するのに二人は必要と言われるブラックベアを一人で討伐したと言えばその通りであり、聞こえもいいだろう。だがそれは奇襲がうまい具合に決まっただけに過ぎず、自身はただの愚かで無能な、矮小わいしょうなる凡人弱者であるということを他でもないヒロが誰よりも理解している。故にヒロは決して油断などせずに常に警戒する。これは遊びなどではなく紛うことなき命のやり取りであり、ヒロは圧倒的劣勢なのだから。


 流石に残り二体のブラックベアも冷静を取り戻してしまったらしく警戒しているのかこちらをジッ、と眺めている。


(マヌケではないが知性は乏しい、か……さて、どうしたものか……)


 冷や汗を流しながらヒロも同じ様に相手の動向を見ながら冷静に分析する。


 素直に厄介だと思う。


 恐らくブラックベアはヒロが何らかの行動を起こそうとした瞬間全力を以て襲ってくるだろう。しかしヒロには対抗手段が殆どない。異能力を発動させてもこの局面では役に立たないだろうし、魔術詠唱をしようにも多分ヒロが唱え終わるよりも早くブラックベアはヒロを殺そうとするだろう。そうなると打てる手段が非常に限られてくる。


 しかしブラックベアの対応も最善とは言いがたい。


 確実に殺したくばヒロが動き出すのを待たずに二体同時で獣らしく襲いかかってくるべきだった。そうすれば今頃捻り殺されヒロは愉快なモノに成り果てていただろう。少なくても逆転の方法を考える余裕なんてなかった。


 だが悠長に考えている場合でもない。この膠着こうちゃく状態も長くは続かない。絶対に向こう側が我慢の限界に達して襲いかかってくる。故に早くこの形勢をひっくり返すための手段を見つけなければならない。


(残りのブラックベアは二体。俺との距離は……十メートルってとこか。で、こちらが取ることのできる手段は……)


 ヒロは自身の状況や武器を確認していくために。そして、それに基づいた勝利するための道筋を模索するために。


 現状ヒロの武器と呼べるものは、異能力に魔術、ポーチの中に入っている爆晶石が二個と一丁の拳銃に治癒と防御結界の巻物スクロールが二つずつに、背中に背負ってる剣が1本。


(これでどうする……どうすればいい………!)


 異能力は恐らく逆転のキッカケにはならない。魔術を使用するにしても詠唱をするための時間を稼ぐために策を講じなければならない上にブラックベアを殺せそうな魔術は【サンダーランス】と、同じく中級の殺傷性攻撃系・炎魔術【ブレイズボム】と殺傷性攻撃系・風魔術【ガストキャノン】くらいしか習得していない。付け加えるなら【サンダーランス】は射程と弾速はあるが攻撃が狭く致命傷を避けるくらいはブラックベアの身体能力的に不可能ではない。また、【ブレイズボム】や【ガストキャノン】は範囲が広く威力もあるので下手するとヒカリの【ロックウォール】を壊してしまうかもしれないから使えない。


(他には初級の錯覚を起こさせたり十センチくらいの壁を作る程度の魔術しか習得していないし……いや、……?)


 ヒロはやっとの思いで閃いた策が有効かどうか頭のなかでシミュレーションしていく。


(勝算は三割ほどあるかどうかと言ったところか)


 ヒロは自身の腰に装着したポーチを見る。正確にはその中にあるこの作戦の鍵を思い浮かべる。この方法は初手が上手く行くかはが効果を発揮するかで決まる。しかもそれは初手であってコレが効果を発揮しても勝利できるとは限らない。


 だがヒロは先ほどは三割ほどあるかどうか、と言ったがそれは理論上であって、内心ではいけると思っている。何故なら、


ブラックベアヤツらは知性は乏しいがマヌケではない、からな)


 どちらにしてもブラックベアがいつ我慢の限界に達するか分からず他に策が思い浮かばない以上腹をくくるしかない。

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