第9話 少年は魔物を狩る-中-
「グルァァァー!」
先程殺した個体のすぐ近くに居た個体のブラックベアがヒロに向かって叫びながらその狂暴な爪を振り下ろす。
「ほらよっ、と」
対するヒロは先程首を切り落とした死体を爪を振り下ろして来る個体に向けて蹴り飛ばし盾にする。
「グガッ!?」
ブラックベアがヒロに対して驚いたかのような反応を返す。どうやら仲間の屍を足蹴にされた挙句盾にされるとは思っていなかったらしい。
魔物にも仲間を大切にする風習があるのか知る由もないが、ブラックベアは爪を振り下ろすのを止めようとする。だが、残念ながら勢いを殺すことが出来ず、仲間の屍をその爪が切り裂き返り血に濡れる。
「グルァワァァアァァァー!」
それは仲間の死体を傷つけてしまったが故の悲しみか、或いは仲間の死体を盾にされるたことに対する怒りか。千里に轟けと言わんばかりに
「電光よ、弾丸となりて、敵を撃て」
だがヒロはブラックベアの叫びなど気にもかけず即座に異能力を解除し、次の魔術をブラックベアの吠え面──その右目に向けて放つ。使用する魔術は攻撃系・雷魔術【エレクトリックブレット】。【エレクトリックブレット】は初級に分類されており、【サンダーランス】と見た目こそ似ているものの射程、弾速、貫通力ともに劣っており、電流量もせいぜい麻痺される程度という、対人自衛用の魔術である。
本来ならブラックベアに対してこの程度の魔術など何の役にも立たないだろう。だがそれは使い方次第で大きく変わる。
例えば眼球に直接命中させればどうなるか。
そんなものは考えるまでもない。
「グァ…グルァァァーーー!」
右目に【エレクトリックブレット】を喰らった個体が
「チッ……!」
ヒロはしばらくの間は動かないと判断するやいなや舌打ちをしながら左に軽く跳ぶ。すると先程までヒロがいた位置を背後からとてつもないスピードでブラックベアが走り抜ける。少し離れたところにいた個体が【エレクトリックブレット】の詠唱をし始めると同時にヒロに向かって走り出していたのだ。
渾身の体当たり避けられたブラックベアは方向転換をし、もう一度体当たりをしかけんと、ものすごい速さで走って来る。
その走りは凄まじいの一言に尽きた。まともに喰らえば
(だが、このくらいなら……!)
確かに速さは脅威ではあるものの、ブラックベアの動きは真っ直ぐで避けることは決して不可能ではない。
ヒロは右手で腰に装着したポーチから
「くたばれ」
その言葉の合図に銃声が鳴り響きブラックベアの頭蓋に弾丸が撃ち込まれる。
頭を撃ち抜かれたブラックベアはそのまま五メートル程の進み、そして倒れる。頭を撃ち抜かれた以上もう起き上がることもないだろう。
直後動けるようになったらしい、仲間の死体を傷つけさせられ右目を負傷させられたブラックベアが、憎しみの炎を瞳に灯し、図体と同じく大きな口をヒロに向ける。そして、まるで何かを吐く出すかのような仕草をとる。恐らく高熱の炎を吐くつもりなのだろう。だがヒロがそんなことに気がつかない筈もない。
「そんなに死に急ぐなよ」
そう言うとヒロは素早く拳銃をポーチに仕舞い、代わりに爆晶石と呼ばれる赤い結晶体を取り出す。
爆晶石。それは読んで字のごとく爆発する晶石である。熱、或いは瞬間的に大きな衝撃を加えることで爆発する性質を持っており、与える熱量や衝撃がより大きければ大きいほど爆発の威力が上がる。
そしてヒロは、ブラックベアの口の中に左手で──右目を負傷したせいで死角になっているであろう場所から放り込む。
そう。触れればタダでは済まないという炎を吐き出す寸前の口の中に。
爆晶石は口に放り込んですぐにブラックベアの体内で起爆する。炎を吐くよりも僅かに早く。
強靭である筈のブラックベアの肉体が凄まじいまでの爆炎により内側からメチャクチャになり、その死体には腰から上が無くなっていた。
「あと、二体……!」
ヒロは三体目のブラックベアが死んだのを目視で確認した後、気を引き締め直し残り二体の
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます