第8話 少年は魔物を狩る-上-

「大地よ、有象無象をわかかつ、壁と化せ」


 ヒカリが呪文を唱え魔術──術者が自らの意思で(この世の真理に沿う範囲でという制限があるが)、自身の内に秘める魔力を以て超常現象を引き起こす技術──を発動する。


 するとブラックベアの群れがいた足場が群れを分断する様に地面が盛り上がっていき数秒後には高さ約五メートル、厚さ約二メートル程の壁が出来上がっていた。ちょうどブラックベアを五体ずつ分断する形で。


「すげぇ……」


 ヒロは驚きを隠せなかった。


 ヒカリが使用した魔術は地形操作系・土魔術【ロックウォール】という魔術で階級は中級とされる、そこそこ真面目に取り組めば凡人でも習得出来るものだがヒカリのは格が違う。高さや厚さもさることながら何より全長が凄い。そこいらの者が発動しても(一度の魔術行使するのに全力を尽くすならともかく)せいぜい全長4メートル程のなのに対し、ヒカリの場合は全長が二十五メートル程ある。しかも、ヒカリはこれだけの魔術を行使しても、疲れたかのような様子を一切見せていない。


 恐らく高位の魔術師と比べても遜色ないだろう。


 ヒロはヒカリの魔術行使に二秒程硬直していたがすぐに意識を取り戻し、ヒカリに指示を飛ばす。


「俺は左を片付ける!クガヤマは右を頼む!」


 ヒロはヒカリに最低限の指示を飛ばした後、ヒカリの返事を待たずに駆け出す。ブラックベアが突然の事態に狼狽えている今こそが凡人のヒロにとって、唯一のチャンスなのだ。


 ヒロは走りながら右手をこちらに背を向けている個体に向けてかざし、魔術を行使するための呪文を詠唱する。


「雷電よ、我が獲物を穿つ、槍と為れ!」


 唱え終えた直後、ヒロの翳した右手に迸る電気が集まり、そしてブラックベアの頭に向け真っ直ぐに放たれる。


 殺傷性攻撃系・雷魔術【サンダーランス】。この魔術は【ロックウォール】と同じく中級とされているものの、殺傷性攻撃系にカテゴリされていることからも分かるように、軍隊でも使用される様なに特化したものであり、非常に危険な魔術である。射程、弾速、貫通力ともに優れており魔術、異能力などで対策でもない限り容易に貫く上、普通の人間ならかすっただけで感電死する程の威力も秘めている。


 そんな魔術がブラックベアの心臓部にに命中する。


「内なる力よ、我が四肢に、力をもたらせ!内なる力よ、我が肉体を、堅牢にせよ!」


 だがヒロはすぐ様、身体能力を上昇する身体系・強化魔術【フィジカルアップ】と身体強度を上昇する身体系・強化魔術【ストレンクスブースト】の呪文を立て続けに唱え自身を強化する。


 確かに相手が普通の人間なら今の【サンダーランス】で即死だが、生憎ながらブラックベアは魔物である。


【サンダーランス】が命中した個体は心臓は確かに破壊され感電してはいるものの、まだ死んではいない。いや、そのうち死にはするだろうが、それまでの間にヒロを殺そうと暴れ出すだろう。故に、動きが止まっている間にトドメを刺す。


 ヒロは背後に接近した後、走力を一切殺さぬまま跳躍し異能力を発動──左手に一本の剣が出現する──させ、死にかけのブラックベアの首を躊躇なく切り落とす。


 ヒロが着地したあと、切り落とされた頭が地面に転がり落ち、頭と泣き別れた首から大量の血が吹き出る。数秒後には痙攣していた体は完全に動きを止め、立ったまま絶命するはずだ。だがヒロはそのような些事に気を割かない。そんなことを気にしている余裕など無い。

 ヒロが今相手にしているブラックベアはあと四体も残っているのだから。

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