第2話 少年は少女とパーティを組む

 ヒロは別に弱いというわけではないが決して強くはない(せいぜい二流といった程度)。しかし、今まで一人で冒険者としての仕事を、命懸けの戦いをこなしてきたヒロはそれなりの経験を積んでいる。

 だが、そのヒロさえも思わず身構えてしまうほどの、迫力の様な何かがこの少女の笑顔にはあった。


(そう言えばついさっきも『私はそこら辺の人よりも強いです』宣言してたな……)


 この世界にはあらゆる超常の力が存在する。だからこの少女がそんな力を持っていてもおかしくはない。と、ヒロは思いはしたが、


(もしかしたら俺の想像以上のとてつもない力を冗談抜きで持っているかもしれない……?)


 そう思ったヒロは警戒を強める。人が大勢いる空間だからといって『もしかしたら』ということになるかもしれないと、そう無意識に思ったからだ。


 対する少女は不敵な笑みを浮かべたまま、


「きゃー、やめて!視姦なんてやめてください!」


 ………


 なんか変なことを言い出した。それも周りで騒いでいた酔っ払い共の声にも負けないほどの声で。


 日々命懸けで生きているヒロや酔っ払い共もさすがに状況を出来ず硬直しているなか少女は続ける。


「そんなことをするなんて最低です。あぁ、やめて。私、私ぃ〜おかしくなっちゃう〜」


 なんというか名演技だった。まるで本当の被害者のようだ!


 周りの、視線が少女からヒロに移されていく。それもさっきまで本当に酔っ払っていたのか疑いたくなるほどまでに鋭くなった視線が。

 基本的に他人に無関心なヒロもその視線には耐えられず、ギルドの外を指さしながら少女に言う。


「根も葉もないこと言うのやめて!?ちょっと外で話をしよう、な!?」


 だが、少女は、その程度では、止まらない!


「そんな、無理やり黙らせた上で外に連れ出して襲うつもりですね!?なんという鬼畜なんでしょう!?そんなことをされたら私、ゾクゾクしちゃいます!ハァハァ」

「んな事しねぇよ!ってか、ゾクゾクするな!」


 周りの視線が更に鋭くなる。………中には己の武器に手を伸ばす者もいた気がするが、


(流石に見間違えだろう。うん!見間違えだな!それよりもこの事態をいち早く解決するのかが問題だな!)


 ヒロは見なかったことにした。世の中には知らない方が良い事実というものがあるのだ!


 ヒロが大量の冷や汗を流しながらどうやって話を解決する悩んでいる間に、やはりというかなんというか、少女の演技はクオリティを上げていく。というか、この幸せそうな顔からして本当に興奮しているのではないだろうか。だとしたらこの少女の方が真性の変態かもしれない。


「きっと私は誰もいないような路地裏に連れ込まれ、そして犯されるのでしょうね。そして、あんなことやこんなことまでされて………」

「オーケー、一緒に冒険をしようではないか。だからこれ以上変なことを妄想しないで!お願いだから!」


 ヒロはこの少女とパーティを組むことを受けいれた。これ以上変なことになったら困るのだ!ヒロの気のせいでなければ何人かが街を取り締まっている衛兵を呼びに行こうとしていたし。


 対する少女はヒロの心など意にも介さず平然と自己紹介をはじめる。先程の事が嘘だったかのよう(嘘なんだが)に、嬉しそうに、本当に心の底から嬉しそうに。


「私の名前はクガヤマ=ヒカリ。よく誤解されるけどクガヤマがファミリーネームだから。よろしく!」

「おい、さっきまで敬語だっただろうが」

「そんなことは気にしなーい。それよりも君の名前は?」

「そんなことって……」


 どうやらこの少女──クガヤマ=ヒカリにとって言葉使いはどうでもいいらしい。


「まぁ、いいか」


 だがそれはヒロにとっても大して変わらない。ヒロも頭を切り替え、手を差し伸べ、自己紹介をする。


「俺はヒロ。ヒロ=レンヴィールだ。こちらこそよろしく」

「うん!」


 ヒカリはとても嬉しそうに頷きながらヒロの手を取った。


 以上がヒロとヒカリがパーティを組むまでの経緯である。

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