第1話 少年は記憶を振り返る
翌日の昼過ぎ。
ヒロは、自分が泊まらせてもらっている宿の部屋で普段通りの時間に目を覚まし、そして普段通りの服装(黒のシャツとズボンの上に灰色の革コートを着た状態)に着替える。
そう、ここまでは普段通りだ。
だが、
「まだなの!?早くしないと置いて行っちゃうよ!?」
この少女──クガヤマ=ヒカリがなんの前触れもなく虚空から部屋に現れるまでは。
「はぁ、別に置いていって構わないけど……てか、今どうやって部屋に現れた?」
「そんなこと気にしない!外で待ってるから早くしてよね!」
そう言い残すとクガヤマは元気よく部屋(今度はちゃんと?窓を通って)から出でいった。
「はぁ……」
ヒロは諦めたようにため息を吐くと、仕事に必要最低限の薬や道具を小さめのポーチに詰め込み、自分の愛剣を背に吊るして部屋の外に出る。普段通りに、今日を生きる分の金を稼ぐための仕事に行くために。
「やっと出てきた。早く早くー!」
普段と違って元気な少女と一緒に、だが。
(なんでこうなったんだっけ?)
ヒロは現実から目を背けるようにパーティを組んだ経緯を思い出す。
◇◇◇
「ならば私と冒険をしませんか?」
そう声をかけてきたのはヒロと同い年ぐらいの少女だった。
その少女は、白シャツに短パンというラフな格好で、美少女と言えなくはないが飛び抜けて可愛いという訳ではない顔付きで、髪は少し長めの金髪、体格はこの年頃にしては若干背が低く感じるものの胸の発育は平均より良いのがひと目でわかる、そんな見た目だった。
ヒロは思わず胸のほうに視線がいかないように気を付けつつ、
「イヤです。大変申し訳ございませんが他の方に当たってください」
取り敢えず断ることにした。
ヒロは、この付近で活動している冒険者たちの間ではやる気のない冒険者として有名だ。本来なら誰もパーティを組もうとしない。そのヒロを誘って来たということは、恐らくこの少女はそんな噂すら聞いたことない様な新人なのだろう。
だが、ヒロには新人の面倒を見られるほどの実力や余裕はない。
少女はいきなり断られるとは終わっていなかったらしく数秒間硬直した後理由を聞いてくる。
「どうしてですか!?」
「だって君、冒険者になって間もないでしょ?」
「実力のことを気にしているのなら心配はいりませんよ。私は多分そこら辺の人より強いですから!」
「へぇー、そうなんだ」
その発言について意外には感じたが、そこまでの驚きはなかった。
この世界には、誰もが持っている『異能力』という名の才能や、魔術や魔剣、世界に十本しかない神剣などといった超常の力が存在する。
故に、この少女が他人より優れた『何か』を持っていてもおかしくは無い。ヒロにだって奥の手と呼べるものがいくつかある。
だが、経験が浅く使いこなせないのであれば意味がない。
それに、
(パーティなんて面倒臭いしなー)
と言うのが本音だった。
少女は、ヒロの顔をしばらく見たあと少しため息をした。恐らく、ヒロが何を思っているのかなんとなく悟ったのだろう。
「分かりました」
しかしその顔は諦めたようには、とても見えなかった。むしろ……
「ならこっちにも考えがあります」
むしろ、自身に満ちた不敵な笑みを浮かべていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます