このゴミ箱の中で

ザイソン

第1話

これは、とある世界ゴミ箱の短いお話。



「……あれ?」


少女はいつのまにか数百人、いや数千人もの人々と共に同じ方向に向かって歩いていた。


(この人たちは誰だろう?)


少女の見たことのない服、髪型をした人たち。

中には角や翼があったり、そもそも人間とは思えないような者もいた。

統一性がなく、誰も彼も個性的な姿をしている。


(私は仲間たちと魔女を倒すために旅をしていたはず……)


世界を裏から掌握しようと魔物たちを操り、人々を苦しめる魔女。自分の両親を殺した不倶戴天の悪を倒さんと次の町へと旅をしている。


「敵の魔法?それとも何かの罠?」


少女はキョロキョロと辺りを見回し、何か出口のようなものがないか探す。

しかし、真っ白な風景ばかりが広がりそれらしきものは何も見えない。


「早く戻らないと……みんな、心配してるはず」


少女はなんとかしようと行動しようとした時、後ろから声をかけられた。


「おや?あんた新入りだね?」


振り返ると奇妙な姿をした見目麗しい女性が立っていた。

金のように輝く髪、胸元を大胆に開けた紅葉柄の服。

特に目に付いたのは、狐の様な耳と触り心地の良さそうな七本の尾であった。


「本物だよ」


少女の信じられないものを見るかの様な視線に気づいた女狐はニコッと笑いながら答えた。


「……貴女は誰ですか?」


「私は……まぁあんたの同類ってところかね」


「なんでそんな変な格好してるんですか?」


女狐は目を丸くして驚いた。


「あ、そう見えているのか。私からすりゃあんたの方がよっぽど変な格好してるけどね」


「何を言ってるんですか?これは我々の正装です」


「その桃色の洋装でさらにフリフリのフリルが付いた服が?魔法少女じゃあるまいし」


「私は魔法少女ですよ?」


少女の堂々とした答えに少々面食らった女狐は一瞬反応が遅れた。


「……なるほど。


少女は女狐の言葉の意味が分からず首を傾げた。

しかしあまり気にすることなく次の疑問をぶつけた。


「ここは一体なんなんですか?」


「ふむ……それはとても難しい質問だ」


女狐は腕を組み、顔を伏せ考える素ぶりをする。

数秒黙り込んだのち、女狐は顔を上げた。


「強いて言うなら……墓場かね」


「墓場……ですか?」


「埋葬されているのはここにいる奴ら全員。もちろん、私も。そしてあんたも」


女狐は大きく手を広げ仰々しく述べた。


「何を馬鹿なこと言っているんですか?私は死んでなんかいませんよ」


「んー、たしかに死んでないかもしれない。けど、死んだも同然なんだ」


「どういうことですか?」


「詳しく言えば、ここは終われなかった、続きのない世界の墓場さ」


あらゆる漫画、小説、アニメにはストーリーがあり、その中に世界があり、生き物や人がいて、その人たちの物語があり、そして主人公がいる。

そして、作品を作るまでに切り捨てられたり、没になったり、発表されても打ち切りになったりしたものもある。


「ここはそういうものが集まる世界で、私もあんたも、作者に捨てられたのさ」


「な……何を言って……」


「つまり、私たちの元いた世界は小説かなんかの中の世界で、作者がその先の話を作れなかったがために切り捨てられたのさ」


「……は?え?あんな……中途半端なところで……?まだ魔女も倒してないのに……?」


少女は呆然と立ち尽くし、女狐の言葉を否定するかの様に首を横に振る。


「魔女ってのがどんなのかは知らないがそもそも世界ごと切り捨てられたから……無かった事にされたんじゃない?」


「なら……私は何故……?」


「こうして存在しているか?そうさね、主人公だからじゃない?ここにいる奴らは全員個性的だ。さながら、漫画や小説の主人公みたいだ。主人公ってのはその世界の中心で世界を表す者とも言える。だからこそかなって私は思うがね?」


つまりこの女狐もどこかの世界の主人公だったという事だ。


「……私はこれからどうなるんですか?」


「……永遠に目的もなくこの行列の一員として歩き続けるか、もしくは完全に消えるか」


「そ、そんな……」


少女は顔を真っ青にし、自分の未来を想像した。

この何も無い世界で永遠に?

パッと存在自体が消滅する?


「い、嫌だ……」


「ああ、あと自我が消えるってのがあった。あんたのすぐ前を歩いてる奴はつい最近まであんたみたいに喋って自我があった」


少女は前の大剣を背負った鎧姿の男を見た。

目は焦点があっておらず、意味不明な言葉をボソボソと呟いている。


「いったいどうすれば……」


「さあ?」


「さあって……貴女は怖く無いんですか!?」


少女は女狐の無責任なセリフにカッとなった。


「そんな事言われてもね。私は七百年くらい生きてるから別に死のうが消えようがどうでもいいのさ。充分生きたし」


「私は……嫌です……死ぬのも、消えるのも」


少女は涙を浮かべながらそう答えた。

しかし、七百年生きた女狐もどうしようもない。


「……救いはない。私たちはどこに向かってるかも知らずに歩き続けるだけさ」



果てもなく、意味もなく、作者に捨てられた物語たちは永遠にこの世界ゴミ箱の中を歩きづける。


























「ってこんな感じで漫画を描こうと思うんですけど?」


「うん、ボツね」


また、ゴミ箱あの世界没ネタ行列の一員が一人増えた。

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