主人公アシストの勤め方
花見和ノ如く
第1話 新古 伶は主人公。
皆はこの世界の仕組みを知っているだろうか。
基本的には、君たちの世界と同じかも知れない。
同じ地球だからだ。
だが、これだけは自信を持って言える。
「主人公」がいる世界は、ここだけだ。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
私は普通に生まれた。
そして普通に過ごして、健気に、単調に、誰ともほぼ変わらずに暮らしていた。
そんな私も…気付けば十五歳。
この世界の半分の人間はこの年齢になると働き始めるらしいが、私は学校に通うことにした。
高等学校である。
高等学校に行ってからも、あくまで普通に…普通に暮らすことを心がけた。
私がそう頑張っていると、彼が喜んだから。
唯一私が普通じゃなかったのは、その為に普通を"演じていた"ことだろう。
「ジュリ」
私はその時図書室の長机で勉強をしていたのだが、彼の声によってその集中力は失せた。
そして反応してみせた。
そう。私の名前は
彼は振り向いた私を見つめてこう言った。
「ジュリ。俺はお前を主人公アシストに任命したい、いいか?」
驚きだった。
彼はすっかり私になんか興味が無いと思っていた。
そう、彼は主人公という役職を持っている。
そして主人公アシストに任命するというのは、言ってしまえば愛の告白をしているのと同じようなことをされているのだ。何故なら主人公アシストは主人公にとって八人しかいなく、その内四人が女。普通なら好きな相手や気になっている人を四人主人公は指名するからである。
これを逃したらもう機会は訪れだろう。私はそう思っていた。
だって私も…この人のことが…伶君が。
そして彼を見た。
このJ-PANGでたった一人の、「主人公」を。
「主人公」、新古 伶を。
彼は笑顔でこう言った。
「承諾してくれ。もしお前が承諾してくれなかったら…俺は『主人公』になれないんだよ」
私は「分かった」と笑顔で言おうとした。
しかし言えなかった。少し不愉快なところを見つけたからである。
彼が片手に持つ主人公アシスト役の表。その中で私は第八人目の第三候補だったからだ。
つまり私は第八人目であること以前に、第一候補と第二候補が断らなければ任命されなかった…ということである。
彼にとって私は…その程度なのか…?
思わずショックを受けてしまった。
まだ期待しなければ…任命されたからって期待しなければ私は此処まで落ち込まなかっただろう。
だけど私は期待した。
その期待した分ドン底に落とされたのだ。
「分かった」
その悲しみを見せるわけ無いから、トイレを言い訳にして逃げた。
そうだ、私は逃げたんだ。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
2058年。
明治、大正、敬和、永明、天主、慶明と来てまたもや時代が変わる時期に突入した。
その時代の移り目に私は、七処隆満相担当主人公アシスト・正定を担当することになるみたいだ。
そう、全世界三十四カ国の中で各国一人ずつしかいない主人公の八人しかいないアシスト役になるみたいなのだ!!
喜ばしいことだが、私はパッとしなかった。
そう、どちらにしろ主人公が第一。全ては主人公の思いのままに、都合が良く物事を進めなければいけないのだ。
お祖母ちゃんが言っていた。
アシストは主人公の機嫌を損ねないように場を整える職業だって。
だから…パッとした始まり方は有り得ないのである。
主人公アシストの勤め方 花見和ノ如く @aokingyorin
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