第40話:僕はどちらを選ぶだろう?

 仲也が言ったように、僕も色んな経験をした。以前と違って、少し強くなれたように思う。

 美奈が車に轢かれた時だって、以前の僕ならおろおろしてただけだろう。だけどあんなに強く、仲也に想いをぶつけることができた。


 ──僕は明らかに、以前のままの僕じゃない。


「よし、わかった。仲也の案に乗ろう。二人でお互いに、美奈に告白をしよう。そして美奈がどちらを選んだとしても、僕たちは相手を祝福して、今までどおりの仲良しを続けることを誓う」

「よし、俺も誓う」


 僕と仲也は、がっちりと握手をした。そして二人して、美奈の待つ場所に戻る。周りに人がいないのを確認してから、仲也はにこっと笑って、美奈に話しかけた。


「さあ美奈、ヨシキに本を返してやれよ。その代わり、俺たち二人から素晴らしいプレゼントをあげるからさ」

「プレゼント? なになに?」


 美奈は嬉しそうな顔で『もし僕』を取り出して、僕に差し出した。

 二人からプレゼントって、またキザな言い方をするな、仲也は。


「じゃあまず俺からね」


 仲也は笑顔で、美奈の正面に立って、美奈の顔を真っ直ぐに見つめる。


「俺、中谷仲也は、美奈のことが大好きです!」

「えっ?」


 突然のことに、美奈はどう答えたらいいかわからずに、顔を真っ赤にしてあたふたと「えっ? えっ?」と繰り返すばかりだ。


「もちろん美奈を女性として、ラブだって意味だからな」


 仲也のその言葉で、美奈はなお一層あたふたしてる。


「ど、どうしたの急に?」


 仲也は美奈の質問には答えずに、僕の方を向いた。


「はい、次はヨシキの番」


 今度は僕が美奈の正面に立った。戸惑う表情の美奈を真っ直ぐに見つめた。


「ぼ、僕、吉田ヨシキも、美奈のことが大好きです! ……もちろん女性として」


 美奈は「からかうのはやめて!」とさらに顔を真っ赤にしてる。そんな美奈に、仲也は真顔で説明しだした。


「あのさあ美奈。からかってなんかないよ。俺ら二人の本音だし、これが美奈へのプレゼントだ。どう? 嬉しい?」

「あ、うん。嬉しい。ありがとう。でもどうしたの? 急に」

「まあ俺たち二人で色々考えることがあってさ。それで俺たち二人のホントの気持ちを、美奈にちゃんと伝えておこうと思って」

「そっか」


 美奈は楽しそうに笑顔を見せた。


「じゃあ今度は、美奈に返事をもらうよ」

「え? 返事?」

「そう。美奈は俺とヨシキのどっちが好きなのかっていう返事。もちろんラブって意味で」

「そ……それは……」


 口ごもる美奈に、仲也がまた真顔で説明する。


「美奈。俺とヨシキは、美奈が俺たちのどっちを選んでも、相手を祝福して、今までどおり三人仲良しを続けるって約束したから、安心して答えてくれていいよ」


 仲也の言葉に、美奈は「そんな約束したの?」と驚いた。僕は笑顔で「うん」と答える。


 それを聞いて美奈はあごに手を当てて、少しうつむいて、うーむと考え込んでる。僕も仲也も無言で美奈の言葉を待つ。


 心臓が高まり苦しい。美奈はどんな答えを出すのか──


 やがて美奈は顔を上げて、口を開いた。


「私はね……」


 僕も仲也もごくりと唾を飲み込んだ。


「二人とも同じくらい好き!」


 美奈が左手の人差し指で頰をぽりぽり掻きながら、にこりと笑うのを見て、僕はホッとした。どちらかを選ばれるよりも、その答えが一番三人仲良くいられる。


「美奈、俺たちは勇気を振り絞って、それぞれ美奈に『好きだ』って言ったんだから、二人とも同じって、まとめて言わないでくれよ」

「あ、そだね。ごめーん」


 美奈は苦笑いを浮かべて、仲也の真正面に立った。


「ナカ君、好きだよ」


 美奈はだいぶん照れ臭いのだろう、相変わらず頰をぽりぽりと掻きながら、仲也の目を見て言った。


「ありがとう美奈。じゃあ次はヨシキに言ってやってくれ」


 美奈は今度は僕の目の前で、恥ずかしげに口を開いた。


「ヨシ君、好きだよ」

「ありがとう、美奈」


 例え二人横並びの言葉であっても、こうやって面と向かって美奈に言われるのはめちゃくちゃ嬉しい。仲也に感謝だな。


「こ、これでいいかな?」


 凄く恥ずかしげな美奈がちょっとかわいそうで、僕は即座に「うん」と答えた。しかし仲也は首を少し傾げて「うーん」と唸ってる。何か不満があるのか?


「やっぱり負けたか」


 仲也が残念そうに呟いた。負けたってどういうことだ?


「美奈、ホントのことを言えよ」


 仲也が真顔で言った。美奈は笑顔で「ホントだよ?」と答える。


「いや、嘘だ。美奈がそうやって、左の指で頰を掻くのは、嘘をついてる時だからな。俺に言う時にはそうしてたけど、ヨシキの時はしてなかった」



 美奈はぎくっとした表情を浮かべた。


 えっ、ホントだろうか? 仲也はそんなことをよく知ってるな。僕は長年の付き合いでも、全然気づかなかった。


「なあ、美奈。ホントに正直に答えてくれ。お前、ホントはヨシキが好きなんだろ?」

「いや、あの……」

「美奈。俺は美奈がホントのことを言う心の準備はできてる。俺たち三人が後悔しない高校生活を送るためにも、ホントの気持ちを聞かせてくれ」


 美奈は仲也の顔をじっと見て、首を捻って今度は僕の顔を見つめる。

 ──そしておもむろに口を開いた。


「うん。私はヨシ君が好き」


 美奈はそう言った後に、仲也に「ナカ君ごめんね」と付け加えた。


「美奈、惨めになるから謝るな。俺は、お前が正直な気持ちを言ってくれただけでいい」


 美奈が小さな声で、仲也に「ありがと」と呟いたのが聞こえた。


「さあ、じゃあ帰るか! もちろん三人仲良くな」


 仲也は明るい声を出したけど、顔は引きつってる。なんでここまでしてくれるのかわからないけど、仲也に感謝だ。


 仲也を真ん中にして三人並んで歩きながら、小声で「なんでここまでしてくれるの?」と仲也に訊いた。


 仲也は、タイムリワインドの力を借りて、僕から美奈を奪ったことに、実はずっと苛まれてたんだと答えた。


「だって俺にとってもヨシキは大切な友達だから、これでいいんだ。スッキリしたよ」


 僕は美奈と想いが通じたことも嬉しかったけど、仲也がそう言ってくれたことが、めちゃくちゃ嬉しい。


「なに二人でコソコソ喋ってるのー?」


 美奈が僕らを覗き込んで、怪訝な顔を向けた。


「男同士の内緒話だ」

「そうだよ。美奈は口を出しちゃダメだよ」


 美奈は「ええ〜?」と、頬を膨らませて「ぷんすか」とか訳のわからない言葉を吐いた。


 そっか。美奈が左手の人差し指で頰を掻くのは、嘘をつく時か。僕よりも仲也の方が、美奈をよく見てるってことだな。


 ん? そういえば僕も、美奈のそんな仕草を何度か見た覚えがある。

 あの時も──

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