第23話:今さらズルいよ
校門に着いたら、美奈が一人で待ってた。
「仲也は?」
「もうちょっとかかるみたい。待っててってメッセージが来た」
「そっか」
「ヨシ君さ、やっぱり私とナカ君が付き合うのが嫌なの?」
なんの前触れもなく突然美奈が発した言葉、まさに図星を突かれた言葉に、ギクッとして美奈を見つめた。
美奈は真顔で僕の答えを待ってる。
「そうじゃない」
心の中では『そうなんだ』と答えていたけれど、口では否定した。
今さら肯定しても、美奈と仲也のデートがなかったことにはできないし、二人の間を壊すことが僕の願望ではない。
「じゃあなんで私を避けるの? ヨシ君とギクシャクするのが嫌だったから、ナカ君にデートに誘われた時にヨシ君に相談したのに」
「いや、それは……」
「相談したことも覚えてないなんて言うし。今さらズルイよヨシ君」
いや、ズルいっていうか……
美奈は真剣に怒るけど、ホントに身に覚えのないことなんだよ。
美奈にそう言いたいんだけど、そんなことを言ってもとぼけた無責任なヤツだと思われるだけだ。
「それともヨシ君は、ホントに覚えてないって言うの?」
美奈は確かめるように、うつむいた僕の顔を下から覗き込んできた。
「う……うん。ホントにごめん。ここ一週間くらいの記憶がおかしくて」
美奈の真剣な眼差しに、つい本音を言ってしまった。いい加減なヤツだって思われてしまうかもしれない。
「ふぅん」
やっぱり美奈は疑ってるんだろうか。
美奈の口調は疑ってるというか、冷たいというか、探ってるというか……そんな複雑な感じに聞こえる。
僕だってホントは、美奈とギクシャクなんてしたくない。今までどおり仲良くいたいんだ。
だけどどうしても、美奈が仲也を好きだってことが引っかかってしまう。
こんな態度でいたら、益々美奈の気持ちが離れるだけだってわかってるのに。
そうだ。もし僕が体験したことを美奈に話したら、美奈はどう言うだろうか?
僕のことを好きだって言ってくれて、デートをした話。それを聞いたら、「実はホントはヨシ君が好き」とか、言ってくれないかな。
「あの……美奈」
「なに?」
「実はさ……」
いや、言うべきか。言わない方がいいのか。
「お待たせ!」
「あ、ナカ君、おかえり」
声に振り向くと、仲也の日焼けした笑顔がそこにあった。
「二人とも深刻な顔して、どした?」
「なんでもないよ。じゃあ帰ろっか」
いつものように仲也を真ん中に挟んで、三人並んで歩き出した。
さっき僕は、何をどこまで言うつもりだったんだろうか。自分でもよくわからない。
「そうだ、ナカ君。七月の第三土曜日に、夏ハイダンスの県大会があるんだけど、言ったっけ?」
「え? 聞いてないな」
「……だよね。見に来れる?」
仲也は宙に視線を向けて、「ええっと」と考えて、あ、無理だって答えた。
「その日はサッカー部も県大会だよ」
「そっか……残念! 今年は私がメインダンサーだし、せっかく朝練も昼練もして、がんばってるのになぁ」
美奈はとっても残念そうな声を出した。
「昼練もやってるの? 凄いなダンス部。今年は気合い入ってんなぁ」
「そうなんだよ〜 がんばってるんだよ。ナカ君は来れないのかぁ、残念!」
美奈はそう言いながら、チラッと横目で僕を見た。僕が応援に行けるか、訊こうとしてるんだろうか。
「僕は予定どうだったかなぁ」
夏休みの最中だし、何の予定もないのはわかってる。
だけど『彼氏』の仲也が行かないのに、僕だけ行ってもいいのか?
仲也を見たら、僕の顔をじっと見てる。こりゃ、気まずい。
「ああ、家族旅行が入ってたかも。難しいかな」
あははと苦笑いを美奈に返したら、「そっか」と残念そうな顔をした。
「まあ会場には行けないけど、離れた所で応援してるからがんばれや」
仲也が美奈の背中を軽く叩くと、美奈は「わかった!」と明るい声を出した。
美奈はちょっと無理してるようにも見える。申し訳ない気もするけど、仕方ないよな。
でもホントは、美奈の応援にめちゃくちゃ行きたい。
去年も行きたかったのに行けなかったし、今年はなんたってエースの美奈がメインで踊るんだから。
仲也が『お前どうするんだ?』ってな顔で僕を見てたから、つい気を遣って行けないって言ってしまった。
「ところでヨシキ。加代とはうまく行きそうか?」
え? なんだよ急に。
美奈の前で、そんな話はして欲しくない。
そりゃ美奈は仲也のことが好きなんだろうけど、僕が好きなのはあくまで美奈だ。
僕と加代がうまくいくなんて、美奈が安心して余計に僕から離れていくような気がする。
「えっ? 何の話だよ仲也。加代とはなんにもないよ」
「だって加代はあんなに可愛くなっちゃって、ヨシキもまんざらじゃなさそうだったじゃん」
「そんなことないって、あはは」
苦笑いでごまかすしかない。そういうことは、言わないでくれよ。
「そう思わない、美奈? 美奈だって、付き合っちゃえばって言ってたよな」
「え? うん、確かに言ったけど、ヨシ君の気持ちも確かめないで、悪かったかなって……」
あ、美奈はそう思ってくれてるんだ。よかった。
だからと言って、『もしかしたらこの世界での美奈も僕を想ってくれてるって希望』が復活するわけじゃないけど、加代と付き合えばいいのにって突き放されるよりはよっぽど嬉しい。
「あっ、そうだヨシキ。親父から映画の試写会のチケットをもらってさ。加代と行ってこいよ。今度の日曜日」
仲也は肩にかけたスポーツバッグのファスナーを開けて、ごそごそと中を探ってる。
「親父の会社が映画のスポンサーをやっててさ、取引先に配るのが二枚余ったらしいんだよ」
「なんで加代と僕なんだよ」
「だって美奈に聞いたら、今度の日曜日は家族で出かけるからダメだって言うし」
やっぱり美奈を誘ったのかと思うと、胸の奥がざわっとした。僕は嫉妬してる。
と同時に、美奈と仲也が一緒に行けないと聞いてほっとしてる自分がいた。
美奈と仲也が付き合うんなら当たり前のことなのに、美奈が仲也と二人で出かけることに、僕の気持ちは拒否反応を示してる。
僕って嫌なやつだ。
「あ、あった、これだ。ほれ、ヨシキ」
仲也はようやく見つけた『試写会チケット』と印刷された封筒を差し出した。
「それなら僕と加代じゃなくて、仲也と僕で行こうよ」
「バカ。バリバリの恋愛映画だぞ。男同士でなんか、恥ずかしくて行けるかっ!」
仲也は笑いながら怒ってる。
バリバリ恋愛映画?
そんなのは、女の子とでも恥ずかしくて行きたくないよ。
「とにかく女の子に凄い人気の小説が原作の映画だから、加代の創作活動にも役立つはずだ。ヨシキと加代で行ってこい。『あなたと永遠に』って映画だ」
うわっ、いかにも女性向けの恋愛モノっていうタイトルだ。苦手だなぁ。
仲也にチケットを無理矢理握らされて、チラッと美奈を見ると、苦笑いしてる。
「行っておいでよヨシ君」
「だって加代の都合もわからないし、勝手に決められないよ」
うん、と言いたくないからあがく僕に、仲也は笑った。
「まあそうだけど、加代に都合を聞いてみろよ。都合が悪いなら、もったいないけどそのチケットは捨ててくれていいから。まあ、そういうことで!」
なんか無理矢理押しつけられちゃったな。
まあ加代にはチケットのことは言わずに、仲也には加代の都合が悪かったということにすればいいか。
そう思って、わかったよと仲也に答えて、僕の家の前で二人と別れた。
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