第15話:仲也と美奈に確認する

◆◇◆


 校門に行くと、仲也と美奈は既に待っていた。


「あ、ヨシキ」


 仲也が心配そうな顔つきで、大丈夫かと問いかけてきた。


「うん、昨日はごめん。体調が悪くて、頭がふらふらしてたんだ」

「もう治ったのか?」

「頭のふらふらは治ったけど……」


 何かあったのかと、仲也が心配そうに顔を覗き込んできた。


「なんかね、頭がボーっとして、前の記憶が曖昧なんだ」

「記憶が曖昧!? ヨシキ、ホントに大丈夫かよ?」


 仲也も美奈も心配そうな顔をしてる。


「仲也と美奈はデートをしたん……だよな?」

「ああそうだよ」


 仲也が答える横で、美奈もこくんと頷いてる。やっぱり勘違いじゃないんだ。


「で、前に僕はそれを聞いてて、二人にぜひ行ってこいって言ったんだよね?」

「そうだよ。お前、昨日もおかしなこと言ってたけど、覚えてないの?」


 仲也は凄く不安げな表情で、僕の顔を覗き込んでいる。


「いや、そのへんが記憶が曖昧になってたんだけど、そうだよな。僕はそう言ったよな。段々と思い出してきたよ」


 もちろんそんな記憶はない。だけどこの世界では、なぜかそれが現実なんだ。覚えてないなんていつまでも言ってたって、誰も信用なんかしやしない。

 僕の言葉を聞いて、仲也と美奈が少しほっとした表情を見せた。


「よかったよ。ヨシキがおかしくなったのかと心配した」

「まだちょっと体調は悪いけど、すぐに良くなると思う。心配かけてごめんな。さあ帰ろっか」


 僕の記憶と今の現実が違う。

 そんなことを彼らに言っても、頭がおかしくなったと思われるだけだ。


 とにかく今は、今の現実を受け入れるしかない。

 そしてなぜこんなことになったのか。そして元の状況に戻れるのか。

 それを探るのが、今の僕にやれることだ。


「じゃあまあ明日」


 自分の家の前で別れて、歩いて行く二人の後ろ姿を眺めてると、今までよりも二人が仲良さげに見えて、胸の奥底がチリチリと痛い。


 僕は二人から目をそらして、逃げるようにして家の中に入った。



 居間に入ると、すぐに二階から妹の愛理が降りてきた。


「おかえり、お兄ちゃん」

「た、ただいま」

「どうしたの? なんか暗くない?」

「えっ? 電球切れたのかな?」


 僕が天井を見上げて蛍光灯を確認すると、愛理は呆れたような声を出した。


「違うって。お兄ちゃんだよ」

「えっ? 僕?」

「暗い」

 

 いきなり見抜かれた。どうやら僕は、隠しごとが下手なタイプなんだな。


「ちょっと体調が悪いんだ」

「大丈夫? 風邪でもひいた?」

「ああ、そうかもな。晩飯まで、ゆっくりするよ」

「うん、わかった」


 愛理は居間から出ようとして、扉の所で立ち止まって振り向いた。


「仲也さんと美奈さん、もしかして付き合いだした?」

「えっ? なんで?」

「なんとなく。だって……今までよりも、歩く時の距離が近いから」


 こいつ、なかなか鋭い。そんな所を見てるんだ。

 僕が否定もしないで黙ってるのを見て、愛理はこわばった表情になった。


「そうなんだ……ショック! お兄ちゃんが体調悪いのは、そのせいなんだね」


 美奈と仲也が付き合いだしたってことも、僕の体調がそのせいだってことも、否定する元気が出ない。


 愛理はうつむいて、とぼとぼとした足取りで居間から出て行った。

 何でもかんでも、勘の鋭いやつだ。その勘の鋭さで、なぜ僕がタイムリワイドしてしまったのか、解明してくれないだろうか。


 いや、愛理に事情を話すわけにはいかないな。まあ話したところで信じやしないだろうけど。


 僕は机に向かって座り、頬杖をついてあれこれ思考を巡らせた。


 僕が今知りたいのは三つ。



 一つ目は、なぜこんなことになったのか。つまりタイムリワインドのスイッチはなんだったのだろうか。

 二つ目は、どこまで過去改変が起きてるのか。

 そして三つ目は、どうしたら元の状態に戻れるのか。


 元の状態にさえ戻れれば、はっきり言って先の二つはどうでもよくなる。

 だけど原因がわからないと、どうすればいいかが考えられないし、タイムリープ物語を今までたくさん見てきた僕にとっては、先の二つも気になる点だ。



 今まで見てきたタイムリープ物のことを思い浮かべる。


 今の状況を考えると、自動車をタイムマシンにした映画や、電子レンジとメールを組み合わせたタイムリープマシンを開発したアニメは参考にならないな。そもそもそんな機器は、作ってないし。


 ラベンダーの香りでタイムリープをする小説は、未来人が作った特殊な薬品だった。

 そういや、未来人と宇宙人と超能力者が出てくるラノベも、タイムリープは未来人の力のおかげだった。


 他には、男女が入れ替わるアニメは神がかったお酒だし、打ち上げ花火を見るやつは正体不明のアクセサリーみたいな道具か。



 うーん、わからない。特に変わったアイテムを目にした覚えはないし、周りに未来人なんかいないし。

 いや待てよ。未来人なんて、自分は未来人ですと顔に書いてあるわけじゃない。

 誰か、それらしい人物はいないか?


 ──あっ、一人居た。


 加代だ。


 同じ部活をしてるのに、僕はよく加代のことを知らない。


 もしかしたら、元々加代なんて人間は存在しないのかもしれない。未来から来て、知らない間に記憶を操作して、前からそこにいると思わせてるだけなのかも。


 そういえば加代は、今日は部活に来なかった。

 たまたま休んだのかと思ってたけど、もしかしたら、もう加代という存在自体が消去されてるのかもしれない。


 そう考え出したら、どんどん加代が怪しく思えてきた。


 メッセージを送ってみるか。


 そう考えて、スマホを取り出して画面を見た。


 そうだ。このスマホ。

 これを落として画面が点かなくなって、その直後に地震が来たんだ。そして気がついたら、タイムリワインドしてた。


 これがまさか、時間を巻き戻す機能をもった機器だとか?


 これを落とした瞬間、その機能が発動した。

 そうは考えられないか?


 部屋の床は硬いフローリング。叩きつければ、あの時と同じような状況を作り出せる。


 僕はスマホを握りしめた手を上にあげて、床をじっと見つめた。

 鼓動が高まり、息が苦しい。思い切りをつけるために、少し大きく吸い込んだ。

 そして手を振りおろす──

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る