第14話:スマホの中の写真

 スマホの電源が入れば、美奈との写真も残ってるかもしれないし、何かがわかるかも。


 そう考えて、起き上がって取り出したスマホは、相変わらず画面にはヒビが入り、真っ暗のままで電源は入らない。

 ふと思いついて充電コードを挿してみると、ポンと充電音が鳴った。


 やった!

 幸い、本体は壊れてないようだ。


 片手でスマホを持って、もう片方の手のひらにペシペシと叩いて当ててみるけど、何の反応もない。

 今度は逆に手のひらでスマホを叩いたり、ホームボタンを長押ししてみたり。


 ダメ元でそんなことをしてると、突然画面に林檎のロゴマークが現れた。

 おおっ! 復活してくれ、スマホ!


 固唾を飲んで画面を見つめていると、ホーム画面が現れた。

 スマホの電源が入ることに、こんなに感動するのは初めてだ。画面の光が、なんだか神々しく見える。


 震える指先で画面をタッチして、写真アルバムを開くと、そこには──



「あった!」


 そこには美奈とのデート中のツーショット写真があった。


 画面をタッチして、美奈の顔を拡大する。

 僕の横で恥ずかしそうに微笑んでいる美奈の顔。


 ──よかった。美奈とのデートは、妄想なんかじゃなかったんだ。


 胸の奥から熱いものが込み上げてきて、それが僕の目から涙となって、流れ出る。


「美奈……美奈……」


 それはとめどとなく溢れてきて、自分で止めることができない。

 僕のことを好きだと言ってくれた美奈の笑顔が、この画面の中には確かに存在する。


 しかしなぜか今の現実は変わってしまっていて、この世界で美奈のその笑顔が向けられる先は、僕ではなくて仲也なんだ。


 悲しみという言葉の本当の意味を、僕は生まれて初めて知った気がする。それはこんなにも胸が痛いものなのか。


 なぜこんなことになったのかわからない。

 そして元の状態に戻れるのかもわからない。


 僕はいったいどうしたらいいのか?

 混乱する頭を少しでも冷やして、考えなきゃいけない。


 だけど……疲れた。まだ頭がぼうっとしてるし、体も重い。

 とにかく美奈とのデートが、単なる妄想ではなかったことにほっとした。


 うつ伏せにベッドに倒れこんで目を閉じたら、知らない間に意識が遠くなって、眠り込んでいた。


◆◇◆

─五月下旬の月曜日─


 翌朝、目覚ましにしているスマホのアラーム音で目が覚めた。ヒビは入ってるものの、スマホが元気でよかった。


 起きてしばらくすると、だいぶん頭がスッキリして、頭痛も治ってる。

 だけど、胸の奥の痛みはまだそこに居座っていた。


 昨日は着替えもしないで、私服のまま寝てしまってた。


 とにかく学校には行かなきゃと慌てて制服に着替えながら、昨日の信じられないできごとを思い返す。


 美奈とデートしたのは間違いないよな。


 少し心配になってスマホをもう一度確認したら、ちゃんと美奈とのツーショット写真があって、ほっとした。


 だけども、仲也と美奈がデートしたという話も、きっと事実なんだよな。

 二人のあの真剣な言動を見ると、僕をからかってるとは思えない。


 それと明らかに時間を遡ったような、サッカーボールが転がってきた、あのシーン。


 頭がスッキリした今、思い返すとやっぱり思い違いなんかじゃなくて、二度同じ場面を経験した。

 これはやっぱり、タイムリワインドじゃないのか? しかも単に過去に巻き戻っただけじゃなくて、過去が書き換わっている。


 そこまで考えて、いくらSF好きの僕でも、そんなことは妄想だよなと自分に言い聞かせた。




 学校に着いて教室に入ったら、いつもと何も変わらない日常が待っていた。それからもクラスの中では何の違和感もなく、一日の授業が終わった。


 放課後、僕はいつものように・・・・・・・文芸部の部室に行ってみた。

 恐る恐る部室の扉を開けてみたが、中には誰もいない。いつもは僕よりも先に来ている加代がいないなんて、何かあったんだろうか。


 部室の中は、今までどおりで何の変化もない。壁には本棚があって、たくさんの本が並んでいる。古い紙の匂いもいつものままだ。


 部屋の中央には大きな長机が置いてあり、向かい合って二脚ずつ、合計四脚の椅子がある。長机の上には小説執筆用のノートパソコンが置いたままになってる。いつも加代が使ってるものだ。


 なぜかとても加代の顔が見たくなった。それがいつもの僕の日常だから、日常が今も変わらずにそこにあることを確認したい。


 僕は本棚から適当な本を取り出して長机に向かって座り、本を読みながら加代を待つことにした。



 しばらく本を読むことに集中していて、気がついたらもう6時前だった。まだ加代は来ていない。珍しく今日は学校を休んだのかな?

 もうすぐ部活の時間も終わってしまう。いつもの、校門での美奈と仲也との待ち合わせはどうしよう。

 ──二人に会うのが怖い。


 だけど会わないことには真相もわからないし、このままにしておくのはモヤモヤし過ぎる。

 よし! 覚悟を決めて、二人と話をしよう。


 僕は奮い立たせるように自分に言い聞かせて、部室を出た。

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