第13話:ヨシキのおかげでうまくいったよ

◆◇◆


 仲也は突然、僕に「ありがとう」と礼を言った。


「ヨシキのおかげで、美奈とのデートはうまくいったよ」


 仲也はなんの話をしてるんだろう?

 美奈とのデートがうまくいった?


 だからそれは、さりげなく伝えるつもりなんだけど……


「ヨシキがああ言ってくれたおかげで、心置きなく美奈と会えたよ。めちゃくちゃ楽しかったなぁ」


 仲也は目を細めて嬉しそうな表情を浮かべている。


「美奈も俺のことが好きだって言ってくれてるし、ホントに嬉しい」

「美奈が? 仲也を好き?」

「うん。美奈は今日、はっきりとそう言ってくれたんだ」


 仲也は照れた様子だけど、ホントに嬉しそうな表情を見せる。

 頭が混乱してる。美奈が好きな相手は、僕だよな。仲也はいったい何の話をしてるのかわからない。

 

「仲也、ちょっと待って。美奈とデートしたって? 仲也が?」

「そうだよ。前に話をしたよな?」

「え? 聞いてない。初耳だ」

「何行ってるんだよ、ヨシキ。俺はお前と美奈と三人の関係を壊したくないから、デートするのをやめるって話をしたけど、ぜひ行ってこいって言ってくれたのはヨシキじゃないか」


 なに? どういうこと? それは僕が仲也に話した内容だろ?

 仲也は何を言ってるんだろう? ふざけてるのか?


「いや、美奈とデートしたのは、僕だよな?」

「はあ? ヨシキ、何を言ってるんだ? お前、大丈夫か?」


 頭痛と頭のふらふらが治らない。僕は何か、変なことを言ってる?


「ヨシキ、顔が真っ青だぞ。体調が悪いんじゃないのか?」

「うん、頭がクラクラする」

「さっさと帰って寝ろよ。送ってこうか?」

「いや、家がすぐそこだから大丈夫」


 何がなんだかワケがわからない。とにかく頭を冷やして、落ち着きたい。

 そう思って、心配そうに見つめる仲也を残し、家まで歩いて帰った。


◆◇◆


 家に着くとすぐに自分のベッドに倒れこんだ。しばらくじっとしていると、体調は幾分マシになってきた。


 段々と頭が晴れてきて、少しは冷静に考えられるようになってきてる。


 今日僕は美奈とデートをした。そしてそれをヨシキに報告した。その後もう一度ヨシキの所に行って、あいつが泣いてるのを目撃した。

 それから急に地震が起きて、気がついたらまた仲也の横に座ってた。


 あの中学生のサッカーボール。既視感デジャヴなんかじゃなくて、やっぱり二度同じことが起きた気がする。


 間違いないよな。勘違いなんかじゃないはずだ。


 しかし不思議なのは、仲也が美奈とデートをしたと言ったことだ。

 僕をからかってる様子でもなかった。いったいどうなってるんだ?


 そこでふと、美奈に事実を確かめればいいのだと気づいた。

 それに、無性に美奈の顔が見たい。そうだ、美奈の家に行こう。


「ヨシキ、どこ行くの? もうすぐ晩ご飯よ」


 台所から母さんの声が聞こえたけど、すぐに戻るからと返事して、そのまま玄関を出た。





 美奈の家の玄関で、インターホンを押す。美奈の「ちょっと待ってね」という声が聞こえた。

 玄関ドアを開けて出てきた美奈は、いつものようなラフな格好ではなくて、ボーダー柄のティーシャツの上に薄手のパーカーを羽織って、真っ白なフレアのミニスカートを履いてる。


 間違いない。今日デートで着てた服だ。


「ヨシ君、どうしたの? じろじろ見て」

「いや、あの……その服装がね」


 美奈は自分の服を改めて見て、ああそっかと笑った。


「いつもはラフなカッコばっかだもんね。今日はナカ君とデートだったから、ちょっと良いカッコしたの」

「えっ?」

 照れた顔つきの美奈から出た言葉が、僕の脳天を直撃する。頭をガツンと殴られた気がした。


「仲也とデート……したの?」

「うん、したよ?」


 美奈は眉をひそめて、いぶかしげに語尾を上げた。

 嘘だろ? 待てよ、やだよ。そんなのやだよ。


「なんで仲也と?」

「なんでって、だから前にヨシ君に相談したじゃん。ナカ君からデートに誘われて、ヨシ君に悪いと思ったから相談したら、僕のことは気にしないで行ってこいって……そう言ったのは、ヨシ君でしょ!」

「えっ? 僕がそう言ったの?」


 美奈は大きく目を見開いて、それから呆れたような表情を浮かべた。

「私たち三人にとって、こんなに大事なことなのに忘れたの? 信じられない!」


 嘘だろ!? 忘れたというより、美奈とデートしたのは僕のはずだ!


「あっ、そうだ」


 僕のスマホで美奈と撮ったツーショット写真。あれを見せれば、美奈の誤解が解けるかも。

 そう考えて取り出したスマホだけど、画面にヒビが入ってて、ボタンを押しても画面が真っ暗のままだ。


 そうだ。落として電源が入らなくなったんだった。


「何してるの?」


 美奈の怒った声に顔を上げると、真っ赤な顔で僕を睨んでいる。


「いや、あの、美奈と仲也がデートするなんて、今初めて聞いた」

「だからあんなに、ホントにいいのか何度もヨシ君に聞いたのに。なんで今さらそんなことを言うの? ヨシ君って、そんな人だったの? 信じらんない!」


 美奈がこんなに激しい口調で怒るのを、初めて見た。

 完全な誤解だよ! 何がなんだかわからない。


「もう帰って! ヨシ君の顔なんて、もう見たくない!」

「あ、ちょっと待って!」


 僕の言葉を遮るように、美奈はバンっと音を立ててドアを閉めて、カチャリと鍵をかける音が響いた。

 ドアの取っ手を引いてみたけど、ガチャガチャと鳴るだけで開かない。


 嘘だと言ってくれよ、美奈!

 僕のことを好きだと言ってくれたじゃないか。僕だって美奈が大好きなんだよ!


 仲也とデートしたなんて信じたくない。そんなこと、心が壊れそうだよ。


「くそっ!」


 あんなに激しい拒絶の態度。美奈のあんな姿は初めてだ。

 僕はどうしたいいのかわからずに、とぼとぼと頼りない足取りで自宅に向かった。




 それから家に着くまでのはっきりした記憶がない。気がついたら、自分のベッドに仰向けで寝転んでいた。


 そういえばボーッとしてるからってお母さんや愛理から心配されて、なんとか晩ご飯だけは食べて部屋に戻ったんだったな。



 しばらく天井を眺めてたら、少しだけ思考ができるようになってきた。


 いったい何が起きているのか。僕の記憶がそれこそ妄想で、精神的におかしくなってるのかもしれない。そう考えると恐ろしくて、身震いがした。


「あっ、そうだ、スマホ」


 落ち着いて考えたら、スマホを落として壊れたのは確か前の記憶の時、つまり僕が美奈とデートをして、それを仲也に報告した後だったはずだ。

 スマホの電源が入れば、美奈との写真も残ってるかもしれないし、何かがわかるかも。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る