2-20: ギデオン、情報収集をする

「さて。まずは情報収集から始めるとしましょう。……では、アーサーくん。魔生物の専門家の見地から、竜について」

「いきなり僕ですか。わ、わかりました」


 これまでの話でアーサーはすでに竦み上がっている。本当に気が小さいのだけが頂けない男である。


「……とは言っても、竜に関してはほとんどは知られてないんです。魔生物の頂点で、強力な魔力を持ってるっていうくらいで。あとはオーレリウスに棲息しているらしいんですけど、あそこは基本的には外部の人間を中に入れてくれないから何もわかってないんです。実際に目で見た人も居るかどうか」

「なるほど、ありがとう」


 実際に交戦したラインハルトからもたらされた情報も「鱗が恐ろしく硬い」「神のもたらした力を持つ」と、それくらいである。はなしを聞いていたエイベルが今度は口を開いた。


「神に類するものと言うのならば、オーレリウスの神話を当たるのはどうだろうか。「神の力」というのは我々凡人にはさっぱり理解できん」

「ほう! それは名案ですな、さすがローレンソンくん」


 神話、と聞いてユディアが本棚に書籍を探しに行った。王族の部屋ということもあってきちんと置いてあるようだ。

 戻ってきたユディアは革張りの表紙の本を持っていた。中身は子供向けにアレンジしてあるものらしい。


「読んでみるね。『まず大いなる五神があり、彼らは自分たちに似せて小さな神をお造りになりました。神々は無秩序に上下を与え、天と地を作りました。しかし、無秩序が神の創生を邪魔します。神は最も硬い鱗と最も鋭い爪を持ったものをお作りになり、これと戦いました。やがて秩序は全てに行き渡り、神はそこに生きるものを創造されました。天地が生命に溢れたのを見て、大いなる五神は小さな神を置いて天の国へとお戻りになられたのでした』。……だって」

「神話からすれば、本当に竜は神が作ったものってことになりそうですね。最も硬い鱗って、さっきも聞きましたし」


 オーレリウスに実際に神が残っている以上、神話は決して無視できるものではない。オーレリウスはヴェルゲニアにとっては友好国だが秘密主義の面もあって内部に関してはわかっていないことが多い。神話に関しても、これ以上情報が出てきそうにはなかった。


「……じゃあ、ヴェルゲニアの昔話は? そこの二人、「竜殺しヴォータン・ザイフリート」の子孫なんだよ」


 ユディアがザイフリートの二人を指す。ギデオンは得心がいった顔で二人を見た。竜とまともにやり合おうとした点や部隊の統制力の点から只者ではないと感じていたらしい。アーサーは隣でギクリとして彼らを眺めている。


「ほ、ほんとに子孫が居たんだ……。僕「竜殺しザイフリート」のお話小さい頃読んでた……」

「ふっふーん、すごいでしょ。わたしの部下なの」


 ユディアがふふんと鼻を鳴らす。偉いのお前じゃねえだろ、とブルーノが呆れた顔を見せた。


「……改めて自己紹介いたします。僕はザカライア=ヒルデベルト・ザイフリート。現当主を務めている弟の家系のものです」

「ラインハルト=バルタザール・ザイフリート。兄の家系のものだ」


 彼らのお決まりの挨拶ではあるが、ギデオンたちは面白そうに聞いている。ユディアは聞き慣れてしまったが、彼らには新しいのだ。


「ザイフリート家に、何らかの秘伝のようなものはないのでしょうか? 長い家柄ともなると一つや二つ秘伝があるものなのですが」


 ギデオンの問いかけに、ザイフリートの二人は顔を見合わせる。


「俺のところにはない。ここ数代はヒルデベルトが実権を握っている。重要な秘伝なんかはヒルデベルトの方へ集まっているだろう」


 ラインハルトはそう答え、ザカライアを向く。ザカライアは苦い顔をしてみせた。


「僕の方にも、何も。父が何か知っているかもしれませんが。何せ僕たちの代はまだ決闘の決着がついていないもので」

「……そうだな」


 ザイフリートの決闘の話は多少昔話に詳しければ知っているようなものだ。ギデオンやエイベルはともかく、アーサーには思い当たる話があったようで「決闘……」などと呟いて青くなっている。


「……そもそもだ。竜殺し自体は事実なのか」


 エイベルがぽつりと呟いた。




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