2-2:ユディア、ザイフリートについて話す


 ザカライアの願いを聞き届け、ユディアはブルーノの袖を引いて一度部屋を出た。一旦二人だけで話しておきたいのだ。ユディアがこの世で信用しているのはブルーノとギデオンだけだ。


「ラインハルトって、あの? すごいな、軍じゃ有名だぜ。竜殺しザイフリートの子孫だったとはなあ」


 妙に興奮した様子でブルーノが言った。家の名前云々でなく、ラインハルトはその実力で軍内で名が通っているらしい。寧ろ彼自身はあまり家名を名乗らないと言う。


「わたし知らないし」

「知らねえのか? ありゃほんとに傑物っつーかなんつーか、英雄ってまさにこんな姿なんだろうなって憧れそうなもんなんだぜ? ……たまには実地で見るのも悪くないと思うけどなあ」

「ザイフリート家のことなら多少知ってるけどね。家督の場所が不安定だから、軍部内での地位は決して高くないんだよ。実力不相応とも言える。だからわたしたち王族のところに話が上がってくることが少ないんだよね。……最近はザカライアの父親が張り切ってるみたいだけど」

 

 邪竜殺しの英雄の二人の息子――バルタザールとヒルデベルトの戦いは終わっていない。ザイフリート家はかつて行われた決闘をまだ続けているのだ。そのせいで家督の在り処が流動的で、名家にも関わらず貴族との繋がりがない。しかし、ここ数十年はザカライアの家系であるヒルデベルトがずっと実権を握っている。


「普通、彼らの年齢くらいにはもうどっちが家督を得るのか決まってるはずなんだけどね。何か事情があるのかなんなのか、長男がどっちもまだ生きてるんだよ」

「本当に、殺しあってるのか」

「うん、そうらしい。今のところはザカライアもラインハルトもどっちもザイフリート家次期当主候補ってこと。……ほら、貴族っぽく考えてみてよ? どっちに味方すればいいかわからないのは嫌でしょ?」


 ヒルデベルト家から貴族の方へのアプローチがここのところ見られている。さほど地位のある家ではないので無視してきたが、その次期当主と関係する以上これまで通りとはいかなくなった。王族や貴族との繋がりが欲しいザイフリート家現当主の思惑に乗る形にはなってしまったが、ユディアは利用できるものはなんでも使うつもりだ。ザカライアの転属はあっさり認められたという。たぶん、ユディアを踏み台にもっと上の兄弟たちと繋がっていきたいのだろう。


「あー、あとよ。ザカライアの言ってた神っての? 本当にいるのか? それこそお伽話じみた話だ」

「そっか、ヴェルゲニアにずっと居るとわかんないよね。……結論から言うとね、居るんだ」


 神。ほんの少数だけが残っているとされている。彼らは天地を創造した後、あるものは天に還りあるものは地に還った。残ったわずかな神々は活動地域を限定し、人々に恩寵や災いを与えることで「信仰」を得ることに成功した。


「神域っていうの? 奴らは縄張りの中であれば膨大な力を発揮することができるようになってる。……北の国オーレリウスが絶対中立を貫けてる理由がそこ。あそこは神の居る国なんだ」


 神はその場所から動かずに祝福や呪いを投げつける。そして、そのどちらもが強い影響力を持って容易に人生を捻じ曲げる。この世界のルールにも等しい力でオーレリウスは守られているのだ。他国併呑の野望を内に抱えるヴェルゲニアでさえ手が出せていない。


「さて、わたしはザカライアと話に戻るよ。……君は憧れのラインハルトと手合わせでもしてきたら? わたしじゃ組手相手どころか話相手にもならないんでしょ」

「なんで怒るかな……」


 自分がのけ者にされるとユディアはわかりやすく拗ねる。子供らしくていいのだが、後の機嫌取りが少しばかり面倒くさい。

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