第125話 カルマのお仕事
真夜中の空を、カルマは連続転移で駆け抜ける――
世界中で天使や霊獣を召喚している者たちを背後で操っている奴ら――つまりは神々の計略を潰すと宣言した以上は、カルマは速やかに準備を進めるつもりだ。
現時点までに手にした情報など僅かなものであり、計略のほんの一部に触れた程度に過ぎなかった。
力づくで全てを解決することで再び世界を滅ぼす気などないのだから――他の方法で計略を阻止するには面倒な手間も時間も掛かる。
そのくらいは当然覚悟しているし、気長にやるしかないのだが――だからといって時間を浪費する気はないし、今後の活動を効率的に進めるために先にやれることはある。
世界中に一定間隔で転移門をバラ蒔くこと――
カルマは連続短距離転移で高速移動することが可能だが、それにも限界はある。一秒間に二キロ、分速で百二十キロ、時速七千二百キロという巡航速度は決して遅くはないが。
各地を点々として情報収集を進める上でも、何か起きた際に現地に駆けつけるにも、一瞬で移動できる通常の転移の方が有利だった。
しかし、さすがにカルマでも、世界中に転移門を設置するには相応の時間が掛かる。ざっと計算すると、設置することだけに専念しても二十四時間フル稼働で半月程度は掛かるのだ。
情報収集その他を放置してまで専念するのは本末転倒だから、そこまでする気はないが――空き時間の利用方法としては悪くないと思う。
(なんか……メチャクチャ地道な作業だけどな?)
移動先の光景を記憶して解析することで、情報は確実に蓄積されるが。
単調な作業であることには変わりなく――
空を駆け抜けながらカルマは、退屈そうな顔をしていた。
※ ※ ※ ※
その夜、カルマが訪れていたのは――クロムウェル王国の遥か北方。
グランテリオ諸国連合の北端に位置するランバルト公国の首都オルフェスだった。
灰色の石で築かれた街並みを、黒のハーフコートにロングブーツという格好で歩く。
ベルトに差した鞘には、いつもの金色の剣と短剣が収まっていた。
「こんな短期間で話をつけるなんてさ、ロンギスって結構やり手なんだな?」
隣を歩く初老の男に、カルマは揶揄うように言う。
「いえ、カミナギ殿。この国には、元々我ら竜族と親交が深い者たちがおりますので、決して私の手柄ではありませんぞ」
白髪混じりの黒髪を後ろで束ね、
年齢的にはハイネルよりも年下であり、そもそも生きている限り成長する竜族には老いという概念がない。だから人と化した際の初老の外見は――完全に本人の趣味だった。
「いえ、趣味というよりは……実益ですな。人間という種族も年長者を敬う傾向がありますので、交渉事をするには、この姿の方が都合が良いのです」
外見について突っ込んだときに、ロンギスはそう応えたが――半分以上は言い訳だということをカルマは見抜いていた。
街を歩くロンギスが自分の姿を入っていることは、彼が醸し出している雰囲気からもろバレだった。
(人化した自分の姿に酔うなんて、竜にしては珍しい趣味だと思うけど……人間が嫌いって奴よりマシだし、俺にとっては都合が良いかな?)
何れにしても、迅速に役割を果たしてくれるのであれば問題はないし、他人の趣味に口出しするほどカルマも横暴ではないつもりだった――揶揄う気は満々だったが。
二人が向かったのは『白き雄鹿亭』――
裏通りにある如何にも場末の酒場という感じで、彼らのような身なりの良い人間が出入りするような場所ではなかった。
しかし、店主は別段驚く様子もなく、無言で二人を狭い階段の奥にある個室へと案内する。
部屋の中で待っていたのは、仮面で顔を隠した三人の男だった。
店主が退室するのを待ってから、真ん中の男が口を開く。
「バジェット卿……彼が?」
「ええ。先日お話しました、貴方たちに協力を申し出ている方です……彼は私のような竜に
ランバルト公国に於いてロンギス本人は竜ではなく、竜族に仕える人間ということになっていた。
偉大なる竜族が易々と人前に姿を現わしては格が落ちるというハイネルの考えに従ったものだが――下らない茶番だなとカルマは思っていた。
「神凪カルマだ――貴方たちの言い方に直せば、カルマ・カミナギになるな」
漆黒の瞳が仮面越しに男の目を見据える――この
「なるほど……良く解った。バジェット卿の言葉もあることだし、カミナギ殿のことは信用しよう」
仮面の男は口元に笑みを浮かべると、左右に座る男を促す。
「では、諸君……我々も胸襟を開こうではないか?」
三人は同時に仮面を取った。
左右の男は如何にも貴族然とした感じの四十代。年齢相応の威厳を感じさせる。
先ほどから話をしていた中央の男は彼らよりも若く、二十代後半というところか。
広い額の下の太い眉と鋭い眼光――
「私はランバルト大公の第三公子ジョセフ・ランバルトだ……単刀直入に言おう。カミナギ殿には、この国に
国と同じ名前を持つ大公家はこの国の実質的な支配者には違いないが――
ジョセフの眼光が
※ ※ ※ ※
カルマがランバルト公国で会談を行っている頃――
荒野で焚火の炎を眺めながら、レジィは怒りに肩を震わせていた。
(こいつら……全然使えねえじゃねえか!)
ラグナバルを出発してから既に三日が経っていた。本来であれば、目的地であるオークが占拠する洞窟にとうに辿り着いてる筈だが――実際は予定の半分しか進んでいない。
その原因は明白だ――レジィは自分から逃れるように焚火から離れて座る四人の同行者を、呆れ果てたという顔で眺める。
ソフィアが魔法で治療したので怪我は治っていたが――彼らの装備はボロボロだった。
「なあ、レジィさん……確かに俺も悪かったけどさ? あのタイミングじゃ、さすがによう……」
バツが悪そうに言うフェンを、レジィは憮然とした顔で睨み付ける。
「黙ってろ、このウスノロ野郎!
「おい、待ってくれ! それじゃ、フェン一人が悪いみたいじゃないか!」
「ああ、そうだな。使えねえのは一人じゃねえ……レオン、てめえも俺を魔法で撃った間抜けだったな!」
言い返されてレオンは黙り込む。
昨日、そして今日と、人間の支配地域から外れて中立地帯に入った彼らは、敵対的な亜人や怪物の集団と何度か遭遇していたが――
その結果は、レジィが想定していたよりも遥かに悲惨なものだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます