第二話:箱の中の男


 時は少々遡り、宮戸が空から降って来た頃。


 フラン達が隠れ住んでいた集落から離れた地にある都市クレイン。


 そこもまた、魔物達によって制圧されており、街に人気は無く魔物達が闊歩していた。


 そんな街の路地裏を、一人の魔物が歩いていた。頭には角が生えており、臀部からは尻尾、そして豊満な胸を持つその魔物は、牛の魔物だろうか。


 その手には一本ロープが握られており、そのロープは棺のような箱に括り付けられていた。



 魔物は箱を引きずりながら近くの小屋に入り、倉庫のような部屋の真ん中に箱を置いた。




「まさか散歩中に新鮮な肉が手に入るとはね~」



 鼻歌でも歌いそうな程上機嫌な魔物は、ゆっくりと箱の蓋を開ける。すると箱の中には小柄な男性が入っていた。


 子供かと見間違える程の身長しかない男性は死んでいるかのように身動ぎ一つせず箱の中に横たわっており、箱の見た目も相まって死体のようだった。



「んっふっふ~! それじゃ早速、料理の準備を……」



 そう言って魔物は蓋を戻し、鍋を取り出して調理の準備を始める。


 人間を食う魔物達にとって、死んで間もない人間の死体は極上の肉も同然。それが道端に落ちているのだ。


 テンションも上がるというもの。



「とりあえずは火を起こさないと……」



 魔物が火を点けるための木材をガサゴソ探し始めた時、突然、背後でバギりと木材のへし折れる音が聞こえた。


 何事かと後ろを振り返ると、魔物の目の前に真っ二つに折れた木が降って来る。何かと見てみると、それは先程開けた箱の蓋だった。



「ええっ!?」



 驚いて箱に駆け寄る魔物。そして箱の中を覗き込むが、そこに先程まであった死体は無かった。



「何で!? どうして……!」



 驚いて困惑する魔物。慌てて周囲を見回すが、どこにも死体は見当たらない。呆然としていると、魔物の首に突然手が伸びてきて……。



「ひぃいいいいいい!?」



 魔物の首を掴んだ。そのまま腕を拘束して膝を崩し、魔物は完全に拘束された。




 あー……。


 何が起きてんだ?


 目が覚めてみれば真っ暗闇で、蓋だからと開けてみれば何か牛みてえな女がいる。


 というかだ。俺は死んだはずなんだがな……。百合女妹に心臓までバッサリ焼かれて死んだと思うんだが……。


 とりあえずこの女、どうしたもんか。


 殺すか……。いや、とりあえず訊ける事訊いてからだな。



「よう女ァ……。死にたくなかったら知ってることを話しな」



 喋りながら、俺は自分の腰の辺りを探ってみる。


 そこには、死ぬ前と同じ場所に愛用のナイフ。それを刺してあるホルスターがあった。


 よし。ナイフがあるなら問題はねえ。俺はナイフを抜いて女の首に向ける。



「このまま首を切られるのはお前も望んじゃいねえだろ質問に答えな」


「ヒィッ!? 分かりましたぁ! だっ、だからその、もう少しナイフを離して……!」



 んっ? ああ……。距離感間違えて少し刺さってたか。


 まあ少しくらいなら死にゃしないだろ。



「ここはどこだ? お前みたいな姿をした人間なんて見たことねえ」


「なっ、何だお前。私達魔族を知らないのか?」


「魔族だあ?」


「人間共は魔物と私達を呼ぶがな。だが、我々はただの化物じゃない。一種族の魔族だ!」


「そうかい。だが、訊かれてもない事喋るんじゃねえ」


「ぎゃあああああああ!!」



 俺は魔族だという女の肩にナイフを突き刺す。


 だが、魔族……。魔物だと? 何だ? 俺は死んでどこに来たんだ?



「おい、テメエの知ってるこの世界の事全部話しな。死にたくなけりゃな」


「ひっ……! ひっ……!」



 魔族の女は途切れ途切れながら色々と俺に教えてくれた。


 なるほど……。ストレンジャー。異世界か……。



「そうか……。魔物か」


「はっ……! はっ……!」


「切る肉には困らなさそうだな。だが、どうせ切るなら極上の肉がいい」


「ぐうぅ……! つぅ……!」


「うるせえぞ駄肉。ちょっと刺されたくらいで呻くんじゃねえ」



 何だ何だこの世界の連中は根性足りてねえな。


 …………。


 いや、血溜まり出来てんな。このままだと死ぬわ。刺し位置悪くて動脈切ったか。



「んー……。ああ。いいのあるな」



 何だか分からないが、置いてある調理器具の中に火を点けられそうな物があった。試しに弄ってみると、案の定火が点いた。


 これで適当な木材を燃やして……。



「おい、起きろ」


「あああああああああああ!!」



 燃えた木材を魔物の傷口に押し当てて、傷口を焼いた。


 これで血は止まるだろ。



「おい女。名前は」


「ひぃ……! ミトです……」


「よーしミト。ここのボスは誰だ」


「へぇ……!?」


「殺しに行くから教えろって言ってるんだ。どこにいる」



 俺がナイフを手の中で弄びながら言うと、ミトは地面を這いながら部屋の端に逃げていた。


 虫かお前は。



「部屋の隅に逃げるとかお前はゴキブリか。おい。教えな」


「ひぃ……! ひぃ……! まっ、街の真ん中にある図書館に……!」


「分かりにくいな……。おい、案内しろ」


「わっ、私が……?」


「お前以外に誰がいるんだ。俺は隠れながらついて行く。お前が先行しろ」



 俺はミトに歩いて近付き、無理矢理腕を掴んで立たせる。



「妙な真似したらその首が落ちると思えよ」



 ミトは肩を押さえながら立ち上がり、そのまま俺に向かって殴りかかって来た。



「おあああああああああ!!」


「…………」



 俺は魔具を起動させて魔法を使い、自分の身体を消してその拳を避けた。



「なっ……!」



 ミトは周囲を見回すが、見えるはずがない。


 俺の魔具は完全に俺を消し去る。向こうから干渉できなければこっちからも干渉は出来ない。


 それが俺の魔具だ。


 まあ、せいぜい寄り道せずに案内するんだな。



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Wake Up ストレンジャー! ハム @hamuharn

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