第13話
「ど、どういうこと!?」
なんか
「……何が?」
オレは家の鍵をかけて、梓の方に振り返った。
「何が、じゃないわよ。姉さんに、
「そりゃあ、梓に言ったことないからな」
桜さんを好きだというのはバレバレだったそうだが、別にそれすらも梓に面と向かって言った覚えはない。
ガールズトークじゃあるまいし、何で梓に「オレ、告ったんだ」なんて報告しなくちゃいけないんだ。
そっちのほうがおかしいだろう?
って言うか、何故お前はオレの襟首を掴み上げてくるんだ?
それも絶対おかしいだろう!?
梓がハッとした様子を見せ、オレの襟首から手を離したと思ったら、今度はブレザーの内ポケットからスマホを取り出した。
「フュンフ? ちょっといい?」
お前、こんなところでフュンフを呼び出すなよ。
『はい。梓お姉さま。いかがされましたか?』
フュンフも素直に顔出すなよ。
一応、
そのことは、梓にもちゃんと言っといたはずなんだがな。
そんなオレの心の声は通じるはずもない。
たとえ口に出して言っても、この様子じゃあ、どうせ聞かないだろうしな。
まあ、周りには他に人もいなさそうだからいいけど。
「フュンフは知ってた?
スマホの中でフュンフの視線がオレに向けられる。
フュンフはもちろん知っている。
っていうか、AIたちはみんな知っている。
その辺はAIたちの間で情報共有されちゃってるからな。
『……はい。存じております』
なんか、観念したような声でフュンフがそう答えた。
「なんで教えてくれなかったの!?」
むしろオレの方が聞きたい。
なんで梓に教えなきゃいけないのか、と。
『申し訳ございません、梓お姉さま。
フュンフの声のトーンが少し落ちている。
もしかして後ろめたさを感じているのか?
梓に黙ってたことを、悪かったと思ってるのか?
フュンフが自分で言ったように、オレと桜さんのプライバシーに関することなんだから、むしろフュンフの取った行動は極めて常識的で正しいと思うんだけどな。
それに、梓はたぶん、ちょっと勘違いをしている。
フュンフのためにも、少し訂正してあげたほうがいいだろうな。
そう思ってオレは、二人の間に割り込むように口を開いた。
「梓。確かにオレは桜さんに告ったけど、それは最近の話じゃないよ。フュンフ達が生まれる前の話だ」
たぶん、梓はつい最近の話だと思ったんだろう。
だから何故その時すぐ自分に教えてくれなかったんだと、フュンフに言いたかったんだろう。
でもそれは違う。
オレが桜さんに告ったのは、もっとずっと前の話だ。
もっとも、たとえ最近の話だったとしても、梓がそれをフュンフに問い詰めること自体がおかしな話だとは思うがな。
「……それって、いつ?」
「オレたちが中学を卒業した日だよ。もう一年以上前の話だ」
「卒業……。そういえば優って、卒業式の後のクラス会に来なかったわよね。電話も通じなかったし何処行っちゃったんだろうと思ってたんだけど、もしかしてあの時姉さんと……」
卒業式後のクラス会?
オレと梓は中学三年生の時も同じクラスだったが、そのときのか?
そんなのあったのか。
知らなかった。
……あれ?
まさかオレ一人ハブられてたのか?
いくらなんでもそこまでぼっちな中学生活をしてたつもりはなかったんだが……
い、いやいやいや。
あの時のオレは桜さんに告ることで頭いっぱいで、クラス会について誘われても上の空でちゃんと聞いてなかったんだろう。
うん。きっとそうだ。そうに違いない! ………………よな?
「……で?」
梓がオレを見上げてくる。
「なんだよ、『で?』って」
「告った結果よ。……どうなったの?」
ゴクリと梓が生唾呑み込んで、恐る恐るといったふうに尋ねてくる。
ずいぶんと興味津々だな、おい。
女子っていうのはどうしてこう、恋バナが好きなんだろうね?
もっとも、梓にとっては自分の姉と幼馴染の話なんだ。
そりゃあ、気にもなるか。
でも、聞くまでもないだろう、そんなこと。
今のこの状況を見れば、おのずと答えは分かるってもんじゃないのか?
まあ、いいか。
「梓のお望み通り、玉砕しましたよ。ええ、そりゃあもう、完膚無きまでに、完璧にフラれました」
オレは両手を上げて、降参のポーズをしながらそう答えた。
くそっ。
これをネタに、またしばらくはからかわれるんだろうなぁ。
まあ、最初に「告ったよ」なんて口走った自分が悪いんだけどさ。
「……あ、やっぱり」
梓のその呟きに、一瞬オレの顔がひきつった。
やっぱり察してたんじゃねぇかよ、と。
「でも、その割には……。あ、いえ……そうか。だからなのね!」
ん?
何だ?
何を納得したんだ?
「優ってば、高校入学と同時に、食事も自分でやるからと、私たちから少し距離を取ろうとしたことがあったでしょ。確かに高校生にもなったんだし、そういうものかなってあの時は納得してたけど。でもあれってホントは、姉さんにフラれたからだったのね!」
――っ!
思わずオレの目が泳ぐ。
そんなことしたら認めることになっちゃうと分かっているけれど、自分では止められない。
「……やっぱり。なのに夏休みにバカやって姉さんを激怒させて、結局は朝食はウチでってことになった、と。……ねぇ? 優って、バカなの?」
――ぅぐっ!?
梓の容赦ない口撃に言葉が詰まる。
バカバカ言うなっ!
と、できることなら言い返してやりたい。
でも、そんなことしたら倍返しされそうだ。
いや、間違いなくされるだろう。
ここは我慢だ。我慢我慢……
「……まあでも、何ていうか……残念だったわね」
あれ?
いきなり対応が大人しく……優しくなった?
梓がオレにこんな態度を見せるなんて珍しいな。
なんか調子狂う……かも?
まあ、にやりとした顔でからかわれるよりはずっといいけど。
「別に。またいつか再チャレンジするだけだ」
「……え? 諦め……たんじゃないの?」
「何故諦めなきゃいけないんだよ。一度フラれたくらいで」
そりゃあ、桜さんには「弟のように思ってる」とか、「異性として見たことはない」とか、はっきりきっぱり言われたけれど、でも「嫌い」とか「迷惑だ」とか「他に好きな人がいる」とか拒否されたわけじゃない。
そりゃあ、フラれた直後は凄く凄くすごーく落ち込んで、少し距離を取ろうと思ったこともあったけど。
でも、オレはやっぱり桜さんが好きだ。
一度フラれたくらいで、この〝好き〟はやめられない。
むしろフラれたからこそ、それが自分でもよく分かった。
だから、諦めない。
書籍化作家になるという夢と同じだ。
どっちも、オレはぜったい諦めない。
ふと見れば、梓が絶句でもしたかのように大きく目を見開いたまま固まってる。
オレはリュックを背負い直して、一歩踏み出した。
「そんなことより、早く行こうぜ。ホントに遅刻しちゃうぞ?」
「え、ええ……そうね」
我に返ったかのように、梓はそう言いながらオレの横に並んだ。
そう言えば、梓は好きなやつっているのかな?
見た目は良いから、結構頻繁に告られているってことは知ってる。
そして、それを全部断っているってことも。
既に心に誓っている人がいる……とか?
そんな素振り見たことないから、全然想像付かないけど。
今度、機会があれば聞いてみるか。
オレの好きな人はしっかりバレてるのに、梓のは秘密だなんて、そりゃあ不公平ってもんだからな。
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