「HA」と読んでほしい「は」と、「WA」と読んでほしい「は」

   

 推敲していた時のこと。

 自分自身で書いたはずの、こんな文章を目にしました。



「男ははっきりと聞いた」



 それまでは流していたのに、何度目かの見直しで、初めて気になった箇所でした。

 二つ「は」が並んでいます。でも、違う読み方です。最初の「は」は「WA」で、次の「は」は「HA」と読んでもらわないと困ります。

 少し紛らわしいかと思って、語順を入れ替えてみました。



「はっきりと男は聞いた」



 まあ、これは、まだそれほど問題にならない例でしょう。

 しかし、文章表現の似たような問題で、かなり悩まされる場合もあります。

 ちょっと次の具体例を見てください。



「そこに彼はいる」



 こちらとしては「居る」という意味で書いているのですが、漢字で「居る」では表現が硬い気がするし、同じ作品の既に投稿した部分では「居る」ではなく「いる」で統一しているので、ここでも「いる」を使いたいのです。でも、これでは「そこに彼は居る」ではなく「そこに彼入る」と読む人も出てくるかもしれません。

 では、こうしてみましょう。



「そこに彼は、いる」



 文章は正しく区切れましたが……。「読点の後が短すぎない? 収まり悪くない?」と思うのは、私が神経質すぎるのでしょうか。

 それならば、語順変更です。



「彼はそこにいる」



 これで「入る」と読む人はいなくなります。でも、もしかしたら今度は「はそこ」って読んでしまって「はそこ、って何? どういう書き間違いだろう?」と思う人が出てくるかもしれません。

 もちろん、そんなのは一瞬の誤解であって、一瞬誤解したとしても、次の瞬間には正しく理解してもらえるでしょう。しかし、その「一瞬」が、読者の読むテンポを崩す(読者が頭の中で、作者が伝えたいイメージとは別のことを考える)ことに繋がり得るわけです。

 ならば、読点と語順変更と、両方採用しましょう。



「彼は、そこにいる」



 これならば文句はないでしょう。

 でも「彼は、そこにいる」のような短い文章ならば良いとして、実際の作品中では、もっと前後に色々と語句が加わっていますよね。その関係で、すでに一文中に何度も読点で切っている場合もあります。一つの文章中に、あまりたくさん読点が出てくるのは、ちょっと……。

 ええい、もういっそ「は」とはオサラバしましょう。



「そこに彼がいる」



 これも一つの解決策だと思います。

 でも「は」と「が」は少しニュアンスが違います。代用できない場合もありますよね……。


 そんなわけで。

「は」には、いつも困らされます。

 ほら!

 せっかく今回の締めくくりのつもりで記した一文だったのに、『「は」にはいつも困らされます』と書きそうになりました。それでは(なまじ「ハイツ」という日本語もある以上)頭の中で『「は」に はいつ も 困らされます』と区切って読まれるかもしれないし……。

 それこそ語順変更で『いつも「は」には困らされます』で良かったのかもしれませんが、



『「は」には、いつも困らされます』


『いつも「は」には困らされます』



 二つ並べて書いてみると、同じようで微妙にニュアンスが違う気がしませんか?

 上の文の方が「何に困っているのか」が強調されていて、下の文はむしろ「いつも困っている」という感じがするかもしれません。ならば、迂闊に語順変更するのも、あまり良くないのでしょうか。うーん、文章表現って難しい……。




(2018年10月17日「小説家になろう」に掲載したエッセイから一部を削って転載したものです)

   

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