第5話 7日目の出来事

 順調に7日目をむかえた。この食堂は年中無休だから、おれは毎日出勤をしている、といってもまだ7日目だが。おれにとっては首にならずこんなに長く勤められたのは、久しぶりだ。朝、店に入ると、チョット変な雰囲気だった。しかし、そんなことは気にしないで、いつもの通り掃除に取り掛かった。そこに店長が口をきつめにつぐんで、いかにも困ったという表情を浮かべて、おれの前に現れた。おれはいやな予感がした。店長はおれの目を見て言った。

「今日、ウエイター係が二人とも休みになった。一人が休みなら、わたしがウエイターをやるので、なんとかなるが、二人休みだと困る。そこで、今日だけおまえはウエイターをやってくれ」

 おれは、ためらわずに「無理」と言った。おれは上手く料理を運ぶことも、人と接することもできない。そんな恐ろしいことは出来るはずはない。

 すると店長のどんぐり眼が狐目に変わり「なに!なに!なによ!」と言った。

おれは、下を向いてテーブルの上を見た。そのテーブルの上にウエイターの服が置かれた。おれは、その服を着て一日だけのウエイターになった。11時に最初にやってきた客に注文を聞き、料理を運んだ。うまくできた。次から次に客が来て、注文を聞き、料理を運んだ。結構うまくできるものだと、内心思った。しかし、そう思ったときに危険が待ち構えているものだと、やはりその時忘れていた。

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