第94話 モテモテ


 ケイトさんは、目の前にある椅子に座らず、ベッドの上、堀田さんの反対側に座った。

 二人とも、なにもしゃべらない。

 気まずいので、ボクが無理やりなにか話そうとしたとき、堀田さんとケイトさんが同時に声を出した。


「「苦無君」」


「ひゃい!」


 なぜか、声が裏返ってしまった。

 だって、二人の声がいつもと違うんだもん。

 こう、なんていうか。凄みがあるっていうのかな。

 

 二人の美少女が、至近距離からジト目でこちらを見てる。

 普通ならきっと嬉しいはずなのに、なぜだか背筋が冷たくなる。

 呼吸ができない。

 いたたまれなくなったボクは、無理やり立ちあがると、みんなから無視されていた可哀そうな椅子に座ってあげた。

 ふう、なんとか息がつけた。

 どういう状況だろう、これ。


「「あのね」」


 二人の声が、また重なった。


「どうして私のマネするのよ!」

「あんたがマネしてるんじゃない!」


「「イーッだ!」」


 この二人、なんだか息ぴったりだね。

 ボクの部屋、ふかふかのカーペットが敷いてあるから、みんなで床に座ろうかな。 


「ゆ、床に座ろうか?」

 

「「ここでいいです」」


「……」


「あ、そうだ。

 苦無君、おばあ様と魔術の修行するんでしょ?」


 やっとケイトさんがしゃべった。


「うん、おばあちゃん、そのためにわざわざ上京してくれたんだ」


「私も一緒に修行していいって。

 明日からよろしくね」


「えっ?

 ケイトさんも修行するの?

 でも、魔術、もう使えるんでしょ?」


「ええ、でも私にはお母様の魔術を教えてくださるそうよ」


「そうなんだ……」


「く、苦無君、私も魔術の修行していいかな?」


「えっ、堀田さんも?」


「あんたは術の系統が違うでしょ!」


 すかさず突っこむケイトさんだけど、「ケイトウ」ってなんだろう?


「私初心者だから、一緒に頑張りましょうね」


 堀田さんは、さっと床に膝を着くとボクの右手を握った。


「こ、この!

 苦無君、おばあさまと一緒に私も魔術教えてあげる」


 ケイトさんまでボクの手を取り、ひざまずいた。

 これって、男女逆なんじゃないかな?


  ◇


 その頃、切田家の一階では、嫁姑のこんな会話がなされていた。


「ねえ、聖子さん」


「あら、おばあ様、もうケイトさんとのお話は終わりですか?」


「ああ、終わったよ。

 あの子、ずい分と力が強いねえ」


「そんなことがお分かりなんですか?」


「ああ、魔術の神様は、マリアの娘にも祝福をくださったようだね。

 教えるのが楽しみだよ」


「あれ?

 ケイトさんも、修行に参加するんですか?」


「ああそうだよ。

 あの娘がどうしても参加したいんだと。

 苦無の刺激にもなるから、許可したんだけどねえ」


「そうですか……。

 それなら、堀田さんも修行に参加させてあげていただけませんか?」


「ん?

 さっきの娘かい?

 だが、あれは伊能家の孫だろ。

 あたしゃ、あそこが嫌いでね」


「知っています。

 でも、彼女はいい子ですよ。

 苦無とも親しくしてくれてますし」


「ホントかねえ。

 なんか目的がありそうだけどねえ」


「彼女なら大丈夫。

 苦無にとって、決して悪い事にはなりませんよ」


「そうかい、あんたがそこまで言うなら修行に参加させようかねえ。

 だけど、苦無はモテモテだねえ」


「あら、おばあ様、お分かりですか?」


「ああ、分かるとも。

 ああいうの見てると、若返るよ」


「お母さまは、お若いですわ」


「ふふふ、聖子さんはが上手だねえ」


「あら、そんなことありませんわ」


「ふふふふふ」

「ほほほほほ」


 切田家の嫁姑は、それなりにうまくいっているようだ。

 


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