第90話 新しい力の検証(下)
お社の裏手にある平屋で少し休んだ後、ボクは神主さんに連れられ神社の敷地よりさらに奥へやってきた。
そこは、石が敷きつめられた川底のような場所だった。
「この枯れ谷の奥には滝があってね。小さなものだが地脈からの力が濃いからよく修行に使われるんだ」
「まさか、今でも修験者のような方がいるんですか?」
ボクの質問に返ってきたのは、予想を覆すものだった。
「うん、そうだよ。数は多くないが、それでも年に十人ほど滝行をおこなっている。君も興味があればやってみるかい?」
「い、いえ、結構です」
本当の滝行というのは、慣れない人がいきなりやると気を失うほど厳しい。父さんからそう聞いたことがある。
山の水は手が切れるほど冷たいから、普通の人が生半可な気持ちで試すと一分もかからず音を上げるそうだ。
「さあ、ここならいいだろう。君が手に入れた力について調べてみようじゃないか」
当山さんが立ちどまったのは、三方を巨大な岩がとり囲んだ場所で、確かにここで何かしても、誰にも気づかれないだろう。
◇
当山のおじさんが協力してくれて見つかった、ボクの新しい力は以下のものだった。
・火の魔術
・風の魔術
・土の魔術
・水の魔術
・呪術が数種類
ただ、呪術については、おじさんが発現の仕方を教えてくれなかった。
火、風、土、水の魔術については、【基本属性魔術】と呼ばれるものだそうだ。
おじさんからは、きちんとした魔術師に師事することを勧められた。
だけど、魔術師って誰も知らないんだけど、どうやって見つければいいんだろう?
お社裏の平屋に戻ると、玄関の引き戸を開け、ひかる姉さんが出迎えてくれた。
「で、苦無、なにが分かったの?」
「うん、中で話すよ」
ちゃぶ台が置かれている部屋に入ると、堀田さんとケイトさんが立ちあがった。
「「苦無君!」」
二人はボクを両側から挟むと、それぞれが左右の腕を抱えるようにした。
「ちょ、ちょっと、二人とも――」
「大丈夫? なにもなかった?」
「ケガしてない? 気分は悪くない?」
近すぎて、二人の顔をまともに見られない。
ボクは顔だけでなく、全身が熱くなった。
「二人とも近いよ! 今から話すから、とにかく落ちついて!」
「あらあ、心配してくれる人がいていいわねえ、苦無」
やっぱり、姉さんがそんなことを言った。
二人があんなこそすると、姉さんがそう言うと思ったんだよね。
「と、とにかく、二人とも座ろうよ。ちゃんと話すから」
当山先生からは、新しく身に着けた力について、家族以外誰には話さないよう言われているけれど、この二人にならいいだろう。
ちゃぶ台の周りに四人で座ると、ボクは身に着けた力について話しはじめた。
「四属性全部なんて凄いわ!」
「ホント、苦無君って魔術の天才ね!」
興奮した様子の堀田さんとケイトさんにくらべ、ひかる姉さんはいつものままだった。
「ぬるくなったジュースなんか冷やしてもらえるんだよね?」
「うーん、どうだろう。力をきちんと使うためには、きちんと魔術師から習わないといけないんだって」
ボクがそう言うと、ケイトさんがちゃぶ台の上に身を乗りだした。
青い瞳が、キラキラしている。
「それじゃ、私が教えてあげる! 私の家は、魔術師の家系だから」
彼女の意外な告白に驚いたら、堀田さんがすぐに口をはさんだ。
「あ、あんた、それは秘密じゃないの!?」
「ふふん、こうなればそんな事はもういいの! 魔術のことならブリッジス家の私が教えるのが一番だもの!」
「ダメよ! 苦無君には、私が教える!」
「あんたんところは、【力】の系統が違うでしょ! 教えられるワケないじゃない!」
「基本的なことなら大丈夫よ! ね、苦無君、一緒に魔術の勉強しよう」
「ぴょん
「なによそれ! 蜘蛛女のくせに!」
「なんですって!」
興奮してきた二人をなだめようと声を掛ける。
「ふ、二人とも、ケンカはやめようよ」
だけど、姉さんはそんな二人のことそっちのけで話しかけてきた。
「とにかく、母さんと父さんとも話してどうするか決めなくちゃね。修行もせずに手に入れた力だから、むやみに使ったりすると暴走しちゃうかもよ」
暴走?
当山のおじさんが言ったとおり、やっぱり魔術師からきちんと習ったほうがいいのかな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます