第89話 新しい力の検証(中)


 堀田さんとケイトさんと一緒に高級レストランで食事した翌日、ボクたちは、東京駅から電車とバスを乗りつぎ、奥軽井沢までやってきた。

 昨日食事の席で、ボクの新しい【力】について調べるにはどうしたらいいかって話になって、ここへ来ることになったんだ。堀田さんとケイトさんだけで決めちゃったんだけどね。

 家に帰ってから、そのことを母さんに話すと、なぜか手放しで賛成してくれた。

 お目付け役にひかる姉さんがついて来たのが、ちょっと気になるけど。

      

 日よけ用の帽子をかぶり、デイパックを背負ったボクらは、小さな村落の間を抜け、山道へと入った。

 案内役は堀田さんだ。 

 目的地は、古い神社だと聞いている。

 

 うっそうとした木々の間を通る一車線の舗装道は、くねくねと曲がりながら高度を上げていく。

 九月にしては涼しい風が気持ちいい。

 堀田さんを先頭に一列になったボクらは、セミの声に包まれながら歩いていく。

 背後では、ひかる姉さんがケイトさんとイギリスへ旅行した時の話をしている。

 体力のないボクは、前を歩く堀田さんから遅れないようにするのに必死だった。


 三回目の休憩をお願いしようかと思った時、立ちどまった堀田さんが右の木立を指さした。

 上へと続く急な石段は、道からだと木々に視界を遮られ、言われてみないとそんなものがあるなんて気づけない。         

 彼女がいないと、登り口を見逃していたかもしれない。

 半分ほど苔に覆われた石段をやっとのことで登りきると、山の斜面にへばりつくように建てられた、小さなお社があった。


「戸隠からこの辺りにかけて、昔は修験道が盛んだったそうです。この神社は、そういうものと関係が深いそうです」


 堀田さんが神社の由来を話してくれる。


「おや、珍しいな。

 こんなところへ人が来るなんて」


 お社の陰から作務衣姿のおじさんが現れた。

 大柄で、どこか見覚えがある気がする。


「あのう、当山とうやま先生からご連絡していただいたと思うのですが……」


「ああ、君、伊能さんとこの……ずい分大きくなったねえ!」


「堀田さん、この方は?」


「こちら、当山さんです。こちらの神社の神主さんなんです」


「当山さん? もしかして、当山医院の?」


 ボクは、熊のような大男である医師を思いだした。

 確かにこの人にヒゲがあれば、あの先生そっくりになるだろう。


「おっ、君、弟のこと知ってるのかい。アイツは優秀なんだが、ワシはミソッカスでなあ。それより、こんな遠いところまでよく来たね。ウチへ上がって一休みするといい」


 おじさんは姉さんやケイトさんとも挨拶すると、先に立って歩きだした。

 お社の裏にある小さな平屋が彼の家らしい。

 ボクたちは畳敷きの部屋に通され、小さなちゃぶ台の周りに座った。

 さっき通ってきた庭に面した網戸から、風に運ばれた木々の香りがする。

 蝉の声がうるさいほどだった。


 おじさんが、木のお盆にお茶を載せ入ってくる。

 よく冷え水滴が浮かんだグラスに口をつけると、爽やかな麦茶が乾いたのどにしみこんだ。


「能力についての話だということだが――」


 ボクたちが一息ついたのを見計らって、おじさんが話しだした。

 

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