第77話 二人の追跡
伊能家の黒服たちが必死に苦無の行方を捜していたころ、同じマンションの一室では、ベッドに力なく横たわる堀田のスマホが着信で震えた。
『ケイトよ! よく聞きなさい! 苦無君が危険なことになってる』
「えっ、どういうこと?」
『トムから連絡があったのよ』
「トムってあんたの蜘蛛?」
『ええ、そうよ。なぜか、彼、すごく弱ってるみたいで繋がりにくいんだけど、苦無君がどこかに連れていかれたのは確かよ』
「あんた、もしかしてトムに苦無君を探らせてたの?」
『ば、馬鹿言わないで! あんた、苦無と二人だけで保健室に行ったでしょ! あんたが、変なことするかもしれないじゃない!』
「変なことってなによ!」
『もう! 今はそんなこといいから! 早く苦無君を探さないと!』
「どこにいるか分かってるの?」
『クラスメートの一人が、彼が赤い車に乗ってるとこ見たって』
「赤い車……ウイリアムね!」
『ウイリアムって、ストーナン先生?』
「あんなヤツ、先生なんかじゃない! 苦無君が危ないわ! 急いで見つけないと!」
『トムのおかげでおおまかな位置は分かってるよ』
「じゃあ、すぐに合流するわよ!」
『なら、私ん
「なんでわざわざあんたの家に――」
『苦無君がそのすぐ近くにいると言ったら?』
「……分かった。すぐに行くから、着替えて待ってなさい」
『傘を忘れないようにね。雨が降りだしたよ』
ケイトからの言葉は、話の途中でベッドから跳びおり慌てて服を着ている堀田には届かなかった。
◇
「だから、傘だって言ったでしょ!」
ケイトは、雨でずぶ濡れの堀田を椅子に座らせ黒髪をタオルで拭いていた。
ついさっき、ぬれねずみの状態で堀田が彼女の屋敷にころがりこんできたのだ。
「私の服に着替えなさい」
「あんたのって、私に合うのあるかしら?」
堀田が無遠慮にケイトの胸を見る。
「し、失礼ね! あんたとそう違わないわよ!」
「いや、BとDでは、かなり違うと思うよ」
「な、なんてこと言うの!」
ケイトは濡れたタオルで、堀田の髪をぐしゃぐしゃにする。
「ふぁ、ふぁにするのよー!」
さきほどの言葉を反省したのか、堀田の抗議には力が無い。
やがて、二人は互いの目を見てうなずくと、立ちあがった。
「「私たちで、苦無君を救うのよ!」」
異口同音にそう言った二人は、ケイトが用意していた迷彩色のカッパを羽織ると吹きつける雨の中へ勢いよく跳びだした。
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