第69話 新任英語教師
学校が始まった最初の日、朝、教室に入るとクラスメートたちが輪になり、なにか話しあっていた。
なにかあったのかな?
少し気になったけど、そのまま自分の席に着いた。
「マジでそんなにカッコいいの?」
「あの人が乗ってる車って、何千万円もするんだぜ!」
「なんか、すっごい家の御曹司なんだって!」
「十八で大学卒業したらしいぞ」
「日本語ぺらぺらだってよ」
「なにそれ、スペック高い!」
「そんな先生に教えてもらえるなんて最高ね!」
興奮した様子のクラスメートたちからは、そんな声が聞こえてくる。
新しい先生が来るのかな?
ボクはそんなことを考えながら、数学の教科書を開いた。
◇
授業中、堀田さんがなけに元気なく見えたから、休み時間に声をかけてみた。
「堀田さん、調子が悪いみたいだね? 保健室に行く?」
「く、苦無君……ううん、大丈夫。すぐ元気になると思う」
「はい、みなさん、席に着いてくださーい」
まだ休み時間が終わっていないのに、英語の立花先生が教室に入ってきた。
いつもお化粧らしいお化粧をしない先生だけど、今日は、やけに白く塗った顔にピンク色の口紅を引いていた。
服装も、いつもの地味なスーツではなく、クリーム色のおしゃれなもので、真珠のネックレスを載せた胸元が大きく開いていた。
先生どうしちゃったんだろう?
そう思ったとき、彼女の後ろからスラリとした長身の白人青年が現れた。
それはホテルのプールで会った白人の青年だった。
灰色のスーツに身を包んでいるからか、ホテルでしていた遊び人風の彼とは別人のようにまじめそうだった。
ホテルでは右に流していたブロンドの髪は、まん中で左右に分けている。
そのため、どこか神父さんのような印象になっていた。
「はい、みなさん、席に座って。スミス先生は、ご家庭の事情でアメリカへ帰られました。新しい英語の補助教諭は、こちらのストーナン先生になります」
ガタン
そんな音を立て、ケイトが立ちあがった。
「ええと、ケイトさん、なにか訊きたいことがあるなら後で」
立花先生は、とがめるような口調でそう言うと、新任教師の方をうかがうような顔で見た。
「先生、僕はかまいませんよ。君、なにか尋ねたいことでも?」
白人の青年が、完ぺきな日本語で、まるで初対面であるかのように言ったけど、ケイトさんは黙ったまま彼を睨みつけている。
クラスのみんなが、ケイトさんに注目している中、彼女は何も言わないまま、ドサリと椅子に座った。
堀田さんの方を見ると、彼女は明らかにさっきより具合が悪そうで、机に頭が着くほど前かがみになっている。
それを見て、ボクは思わず立ちあがった。
「切田君、あなたまでどうしたの?」
立花先生が、うんざりしたような顔でボクを見る。
「堀田さんが調子悪そうなので、保健室へ連れていきます」
彼女のところへ行き、抱きかかえるようにして立ちあがらせる。
こんなとき、いつもならはやし立てるみんなも、堀田さんのただならぬ様子を見て黙っている。
ボクはふらつく彼女を支え、教室を出た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます