第57話 再会と森の狂獣
塔の側面にある、取っ手のない黒い金属扉に手をかけようとすると、それがいきなり内側から開いた。
「「「えっ!」」」
塔の中から出てきたケイトと堀田さん、そして扉の外にいたボクから異口同音に言葉が洩れる。
ケイトさんは灰色のトレーナーの上下を着て、堀田さんは毛布のようなものを体に巻いている。
堀田さんは、素足だった。
ボクは、慌てて草むらに隠しておいた、彼女の服や靴を取ってきた。
「こ、これ……」
「あわわわわ! こ、これ、苦無君が畳んでくれたの?」
「う、うん。でも、下着には直接触ってないから!」
「あ、ありがとう……」
「家で母さんや姉さんの服を畳むのに慣れてるから」
堀田さんとボクが二人でもじもじしてると、ケイトさんが割ってはいった。
「苦無君、そっち向いててくれる? あんたは、早く着替えなさい!」
ケイトさんに、彼女が無事でよかったって伝えたかったけど、そのタイミングを逃してしまった。
今は、とにかくここから逃げることが先決だよね。
◇
「グルルルルゥ」
それは白樺の木立を進みながら、犬が唸るような声を出し、森に棲んでいる小動物を怯えさせていた。
その体から放射される圧倒的なエネルギーが、生きもの生存本能を刺激するのだ。
あり得ないのは、それが少年の姿をしていることだ。
彼が来ているジャージは、灰色の地に黒や褐色の迷彩色が散らされているが、よく見ると、それはこびりついた血だ。少年が、ここにくるまでに殺してきた動物の血だった。
頭の中に響く声が、彼をここまで連れてきた。
標的は近い。声はそう語りかけていた。
◇
「ケイト、ホントにこっちで間違いないんしょうね?」
「子供の頃はここが遊び場だったのよ。黙って任せときなさい!」
「あんたに任せたら失敗しそうだよ。森の中で迷子にならなきゃいいけど」
ケイトさんと堀田さんは、そんな言葉を交わしながら、早足に木立の中を進んでいく。
その後を追いかけるボクも、二人を見失なわないよう必死だ。
ザザザザザ
枝成りの音がする。
なんだか背筋がぞくぞくする。
「止まって!」
ケイトさんが急に足をとめる。
彼女は、なにかもごもごつぶやいてから、細い指先で地面に触れた。
彼女の指を中心に、白い光がぽわんと広がっていく。
「な、なんなの、それ?」
思わず尋ねてしまったが、堀田さんが立てた指を唇に当てたのを見て、黙っておくことにした。
「人? いえ、大型の獣かしら? こちらに近づいてきてるわ。この森にそんなものいないはずなんだけど。もしかして、野犬でも迷いこんだのかしら?」
指を地面に着け、目を閉じたままのケイトさんが、そんなことを言った。
「とにかく、道に出るわよ。急ぎましょう!
グルルルルゥ
どこからか不気味な鳴き声が聞こえてくる。
ケイトさんが言うとおり、野犬が追いかけてきてるのかもしれない。
そんなものに出くわさないように。
そう祈りながら、ボクは足を速めた。
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