第47話 エディンバラ到着

 ロンドンから赤と白の優美な急行列車に乗り、ウエーバリー駅に着いた。

 ここへ来る途中、車窓の外には、緑の丘と木々が連なる牧歌的な風景が広がっていたが、さすがにエディンバラまでくると、普通に街の風景だった。

 到着する前、石造りだろう古い建物がたくさん見えたから、「普通に」とはいえないかもしれないけどね。

 日本で例えるならさしずめ京都や鎌倉ってところかな。 


「思ったほど涼しくないよね」

 

 やけに広い駅構内を抜けると、午後の太陽がまぶしかった。

 緯度はかなり高いはずなのに、Tシャツとジーンズという格好で汗ばむほどだ。

 右手で引いている青いスーツケースが路面の継ぎ目で跳ねる。

 堀田さんの白いスーツケースはボクのより二回りは大きく、車輪の調子が悪いのか、絶えずカラカラという音がしている。 

  

「堀田さん、暑くない?」


 彼女は、日本なら秋に着るような、首元を絞った七分袖の服に、ひざ下までのズボンを履いていた。

 ああ、女の子だからズボンとは言わないんだっけ?


「大丈夫です。京……いえ、地元は暑いですから」

 

「そう? そういえば、この街でホテルを予約してあるんだよね」

 

「はい、ここから割と近いです」


「でも、そのスーツケース、重そうだからタクシーに乗ろうよ」


「でも、でも、でも……」


 堀田さんは、なぜかスーツケースから手を放し、ボクと手を繋いだ。

 散歩したいってことだろうか?

 たまたま、タクシー乗り場の横を通りかかったので、やはり車で行くことにする。

 白髪頭の運転手さんと協力してスーツケースを後部座席に積みこむと、ボクたち二人は前の座席に並んで座った。

 堀田さんが、運転手さんとやけに流暢な英語を交わしている。


 あれ?

 彼女ってそんなに英語できたっけ?

 授業では、とてもそんなふうに見えなかったけどなあ。

 

 タクシーはそれほど走らずに停まった。

 なるほど、これなら歩いて行こうとしたわけだ。

 それでも、堀田さんが大型の壊れたスーツケースを、ここまで押すなんてことにならなくてよかったよ。

 多分、初乗り料金だろうだけ払って車を降りる。


「あれ? ホテルってどこ?」


「目の前の建物がそうですよ」


 そこには周囲を緑に囲まれた石造りの巨大な建物しかない。


「え!? でも、これってどう見てもお城だよね?」


「ここが予約してあるバルモラ・ホテルです。さあ、早く入りましょう」


 堀田さんは、いつものおどおどした様子が見られない。

 なんだかしっかりしたお姉ちゃんって感じになってる。


「ほ、ホントにここホテルなんだよね?」


 そんなことを言いながら、堀田さんの後を追いホテルのエントランスに向かった。

 制服を着た渋いおじさんが、堀田さんの大きなスーツケースをすかさず受けとる。

 うわ!

 あれ、すっごく重いのに、片手で軽々持ってるよ。

 それより、おじさん、なんで女子高生っぽいチェックのスカート履いてるの?

 頭が混乱してきたボクは、やっぱりどう見てもお城にしか思えない建物に、よろめきながら入っていった。







 

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