第39話 家族会議
「苦無、今日お父さんが帰ってきたら、家族会議するから。あんた、それまで起きてなさいよ」
朝食の後、ひかる姉さんからそんなことを言われた。
「ふーん、ねえ、その家族会議ってなに? 旅行の話したときにやったやつ?」
「あー、あんたは今日が最初の参加になるのか。我が切田家ではね、重要な案件を決めるのに、家族会議を開くのよ」
「アンケンってなに? お姉ちゃんって、それに出てるの?」
「出てるわよ、高校生になってからだけど」
「へえ、そんなのがあったの。知らなかったなあ」
「覚悟しときなさい。家族会議では、あんたが想像もできないまじめな話をするんだから」
「へえー、まじめかー。凄そうだね」
「あんた、全く凄いって思ってないでしょ!」
「だって、姉さんからまじめって言われても――」
「なによそれ! 私が不真面目みたいじゃない!」
「だって、姉さんって家の中じゃあ、すごくだらしないでしょ」
「な、なにがだらしないよ!」
「だって、一昨日だって下着だけでその辺を歩いてたじゃない」
「ばっ、馬鹿っ! なんてこと言うのよ! あれは暑くてしょうがないから、涼んでただけじゃない!」
「そういうの、だらしないって言うんだと思うけど」
「ぐっ、と、とにかく、今日は父さんが帰るまで寝ないこと! いいわね」
「はーい」
姉さんは、ぶつぶつ言いながら、玄関から出ていった。
家族会議かー、いったい何だろう。
ケイトさんのこと、堀田さんとしっかり相談したいから、長引かなきゃいいんだけど。
◇
父さんが帰ってきて始まった家族会議では、思いもしない話が待っていた。
「苦無、母さんから話は聞いたよ。ケイトさんかな、その人のことを友人として助けたい。その気持ちに変わりはないかな?」
「うん、電話で『助けて』って言われたんだ」
「それを聞いてお前はどう思った?」
父さんの顔はいつになく真剣だった。
「助けたいって思ったよ」
「どうしてだい?」
昨日と違い、落ちついた口調で母さんが話しかけてくる。
「理由はないよ。彼女の声を聞いて、ただそう思っただけかな」
母さんと父さんが顔を見合わせている。
なぜか二人とも微笑んでいるように見えた。
「あんた、八月二十日から一週間ほど、なにも予定入れるんじゃないわよ」
黙っていたひかる姉さんが、突然口を開いた。
「どういうこと?」
「母さんたち、新婚旅行に行ってないでしょ? この際、それを済ませちゃおうかって話よ」
「ええと、だからどういうこと?」
「だから~、あんたもイギリスへ行けるのよ。それとも、やっぱりやめとく?」
「行くっ! 絶対行きたい!」
ボクが急に立ちあがったから、母さんたちは驚いている。
「そうか。よし、じゃあ、さっそくパスポートの用意をしなくちゃな。カバンや旅行に持っていくものも用意しておきなさい」
「父さん、ありがとう! でも、お仕事の方は大丈夫なの?」
「ははは、お前が心配することじゃないよ。大人のことは大人に任せておきなさい」
「うん、分かった」
「母さん、頼みがあるんだけど……」
「ひかる、あんたも頼みごとがあるのかい?」
「ええとね、お小遣いの前借をお願いしたいの」
「やれやれ、あんたは金づかいが荒いからねえ。少しは苦無を見習いなさい」
「だって、友達づきあいで――」
「ひかる、向こうでの小遣い、少しなら出してやってもいい」
「父さん、ホント!?」
「ああ、だけど、父さん、母さんの準備を手伝うこと。苦無は自分の準備は自分でするんだぞ」
「いいわ、小遣いがもらえるならそのくらい」
「うん、そうするよ」
ボクの悩みは、思わぬことで解決してしまった。
後はケイトさんをどうやって助けるかだね。
堀田さんに、連絡しておかなくちゃ。
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