第30話 狙われた三人
「ほ、堀田さん!?」
生首だと思ったのは、スマホを手にした堀田さんだった。
手にしたスマホの明かりで、彼女の顔が闇の中に浮かびあがっていたのだ。
「苦無君……」
「あ、あ、あんた、おどかすんじゃないわよ! 十年は寿命が縮んだわ! どうしてくれるのよ!」
ケイトさんが、凄く怒ってる。でも、これは仕方ないよね。
「自業自得よ! あんなクジなんかに【術】を使うなんて」
「こ、このコケシ! 言うにことかいて! ちょっと、その口を閉じてなさい!」
うん、やっぱり、ケイトさんって、日本語ぺらぺらだね。
「さあ、苦無君、肝試し続けよう。あっ、あんた、その手の繋ぎ方なに!」
堀田さんが、スマホのライトでボクたちの手を照らした。
「ふっふ~ん♪ 苦無君とは仲良しだから、これでいいんだもん」
「高校生にもなって、『いいんだもん』ってなによ!」
「はいはい、コケシの嫉妬はみっともないよ」
「キーッ! この蜘蛛女め!」
「蜘蛛じゃないもん、トムだもん!」
「あー、コイツ、また『もん』って言った!」
ふう、こうなると、もう肝試しって感じじゃないよね。
◇
ケイトさんと堀田さん、二人の口喧嘩を聞きながら境内に到着。
賽銭箱の横には電気ランプに照らされた箱があった。
箱には「きもだめし」と太い文字で書かれている。
ボクとケイトさんは、クジで引いた「7」と書かれた紙を入れた。
「これでいいのよね?」
「うん、そのはず」
そんな話をしていると、堀田さんがまたボクの手を引いた。
「苦無君、早く降りよ! 帰りにファミレスでも寄ろうよ」
「そんなことするはずないでしょ! 苦無君はレディを送らなくちゃいけないんだから」
「レディって誰よ?」
「それはもちろんこの私、キャサリン=ブリッジスよ! おーほほほ!」
「なーにがキャサリンよ! このチンチクリン!」
あー、また口喧嘩が始まっちゃったよー。
「とにかく、早く行きましょ、苦無君」
「ちょ、ちょっと危ないよ、堀田さん!」
ここで転んだら、石段の下まで落ちちゃう。
そんなことになったら、死んじゃうかもしれない。
だけど、堀田さんは、そんなことお構いなしで、ボクの手を引いた。
「きゃっ!」
「えっ?」
バランスを崩したボクにまき込まれ、堀田さんがカワイイ悲鳴を上げながら、抱きついてくる。
だけどボクが声を上げたのは、それだけが理由じゃない。
なにかが耳元をかすめたからだ。
もし、堀田さんが抱きつついてこなければ、ボクはそれを頭にくらっていたかもしれない。
それに気がつくと、背筋がぞっとした。
バスッ!
そんな音を立て、ボクが背負ったデイパックになにかが当たる。
足元で乾いた音がしたので、そこをスマホで照らすと、なにか黒いものがある。
拾いあげると、手のひらに乗るくらいの黒い石で、それはまだ温かかった。
誰かがこれを投げた?
「どうしたんですの? 痛っ!」
木下駄を鳴らし近づいてきたケイトが、悲鳴を上げる。
少し離れた右手の茂みから、ガサガサいう音がした。
「だ、誰だ!?」
音がした方へ叫ぶと、遠ざかる足音がした。
「ケイトさん! 大丈夫?」
石を投げた誰かのことが気になったが、ケイトさんの無事を確かめるため、スマホの明かりで声がした方を照らす。
派手な色の浴衣が、思わぬほど近くに見えた。
ケイトは腰を落とし、両手で顔を押さえていた。
「ケ、ケイトさん!」
「な、なにが起こったんですの? なにかがぶつかってきて――」
かがんで彼女の手を取り顔から外すと、左目の少し下が赤くなっていた。
「石が当たったんだね! すぐに冷やそう!」
近くにある手水でハンカチを濡らしてきて、それをケイトさんの頬に当てる。
「このまましっかり持ってて」
そう言っておき、堀田さんの所へ走る。
彼女は石段の上でひざまずき、両手をしきりに動かしていた。
あれは映画かなにかで見た、「印を結ぶ」ってのじゃないかな?
「堀田さん?」
ボクが近づいて肩を叩くまで、彼女はそれを止めなかった。
「あわわわわわ! く、苦無君!? あ、暑くて手で自分をあおいでたの!」
うーん、どう考えても、なにかごまかしてるよね。
でも、今は……。
「大丈夫? 誰かが石を投げてきたみたいなんだ。石が当たらなかった?」
「だ、大丈夫ですぅ~……」
どう見ても、大丈夫って感じじゃないけど、とりあえず石は当たっていないようだ。
そうだ、ケイトさん!
彼女のところへ行くと、まだ顔にハンカチを当てうずくまったままだった。
グスグス音がすると思ったら、彼女が声を殺して泣いていた。
プツン
お腹の底からなにかが沸きあがり、それが体の中を駆けぬけると、なにかが切れる音がした。
【因果反転】
発動条件は、強い感情の発露。
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