第22話 ケイトの秘密

 キャサリン=ブリッジスは、代々続く魔女の家に生まれた。

 中世、ヨーロッパで吹き荒れた魔女狩りを逃れ、彼女の祖先はイギリスのロンドンに移住した。

 やがてそこでも始まった迫害を逃れ、一家はスコットランドへと移り住んだ。

 それ以来、着々と魔術的知識を増やしていったブリッジス家は、今日、魔術の本場である英国において一大勢力となっていた。

 その分野で最も権威のある『魔術協会』の会長は、ブリッジス家の当主であり、「サー」の称号を持つキャサリンの祖父ブライアン=ブリッジスが務めている。


 彼の娘、つまりキャサリンの母であるマリアは、若い頃、京都に留学していた。表向きは留学だが、それは日本古来の陰陽道をブリッジス家の魔術に取り入れるための隠れ蓑に過ぎなかった。

 そのときマリアが接触した中には、日本の異能者を見張る役目を持つ伊能家があった。

 両家には同い年の娘がいて、幼いながらそれぞれが優れた才能を持ち将来を期待されていた。

 似た境遇の娘二人は、すぐに仲良くなり、いつも一緒に遊ぶようになった。

 

 キャサリンが小学五年生の時、マリアがイギリスへ帰ることになった。

 幼い娘がせっかくできた友達と離れるのを嫌がったので、マリアは滞在を引きのばそうとしたが、ブライアンがそれを許さなかった。


「絶対にまた帰ってくるから。そうしたら、また遊んでね」


 空港に見送りに来た伊能家の娘に、キャサリンは涙まみれになった顔で別れを告げた。

 必死に涙をこらえた黒髪の娘は、ただ頷くことしかできなかった。

 

 ◇


 ある日、『魔術協会』の重鎮たちがスコットランドにあるブリッジス家に集まった。

 秘密会議が行われた部屋は、鍵を掛けたうえ、魔術で厳重な「封印」がなされていた。


 キャサリンは、腕試しのため、面白半分に会議の盗聴に挑んだ。

 従魔契約の魔術と錬金術におけるホルムンクス作成の術を組みあわせ、彼女は新しい術式を創りだした。

 それは天才としての才能が開花した瞬間だった。

 その術式を使い疑似人格を埋め込んだ、小さな蜘蛛くもを、あらかじめ会議室に忍ばせておいた。 

 そして、会議が終わった後で蜘蛛を回収し、「彼」から情報を聞きだしたのだ。


 重鎮たちは、東洋のある国で発現した「力」について話し合っていた。全てを支配するかもしれないその「力」について、排除するか取りこむか、それを決めるための会議だった。

 会議の終わりに行われた採決で、『魔術協会』の重鎮たちは僅差で「力」を取りこむ案を選んだ。

 

 会議の内容を知ったキャサリンは、少し驚きはしたが、彼女自身には関係ないことだし、あまりに荒唐無稽な話だから、それほど興味は持てなかった。  

 ところが、三日後に祖父から呼びだされた彼女は、「力」取り込みのために結成されたチーム『ヘロン』の一員として選ばれたと告げられた。

 そして、チームから渡された資料の中に、かつて別れたきり会っていない友人の顔写真を見つけることになる。

 

 こうして、若き魔術の天才キャサリン=ブリッジスは、「力」を持つ少年が在籍する日本の学校へ転校することとなった。

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