第21話 図書館デート(下)
曇っていても蒸し暑かった外から図書館の中へ入ると、そこは天国のように涼しかった。
ボクたちは、とりあえず一階の喫茶コーナーへ向かった。
四人掛けの白い丸テーブルに着く。
ボクの左隣に堀田さん、向かいに佐藤君、右隣にケイトさんが座った。
堀田さんとケイトさんが、椅子をボクの方へ寄せて座っているから、独り離れて座っている佐藤君が、なんだか居心地悪そうだ。
なぜだか彼がこちらを睨んでいるような気がするけど、きっと気のせいに違いない。
「ええと、堀田さんとケイトさんは、知りあいなの?」
誰もしゃべらない変な雰囲気が嫌で、そう質問してみた。
「私、こんなヤツ知りません!」
「こっちこそ、会ったこともないわ!」
女子二人は、ほぼ同時にそんなことを言った。
うーん、どう見ても、知りあいだと思うんだけど……。
「ケイトさん、英語の本が借りたいんだけど、アドバイスもらえるかな?」
佐藤君が、助け船を出してくれた。
それなのに、彼女はそれを無視してしまった。
「苦無君は、部活動なにしてるの?」
「ケイト、佐藤君の質問に答えなさいよ!」
堀田さんが強い口調でそう言ったので、ボクもそれに頷いた。
「……佐藤君、なんですか?」
ケイトさんは、堀田さんの方を睨んだままそう言った。
「英語の本が借りたいんだけど、どれがいいか教えてくれない?」
顔を赤くした佐藤君が、再び話しかける。
「司書の方に教えてもらうといいですよ」
ケイトさんは、佐藤君を見もしないでそう言った。
「ケイトさん、佐藤君は君から教えてもらいたいんじゃないかな? アドバイスしてあげたら?」
思わずそう言うと、ケイトさんは形のいい細い眉を寄せた。
「え、ええ、いいですわよ。どんな本がご希望かしら?」
「ほ、本棚のところで教えてくれる?」
佐藤君の声は、震えていた。
「仕方な……いえ、いいですわ」
佐藤君とケイトさんが立ちあがり、喫茶室から出ていく。
ボクはカウンターのところへ行き、セルフサービスの氷水を二つの紙コップに入れ、テーブルまで持ちかえった。
「はい、どうぞ」
「ありがとう」
小さな口をちょこんと紙コップにつけ、両手でこくこく水を飲む様子は、やっぱり堀田さんで間違いない。
「堀田さん、その、いつもと違うから驚いちゃった」
まだ、コップに口をつけていた堀田さんが、こほこほとむせる。
「あわわわわ! ご、ごめんなさい! え、ええと、苦無君は私のこの恰好、どう思いますか?」
「すごく似合ってる。堀田さんて、すごく綺麗だったんだね」
「……」
「堀田さん?」
耳まで赤くなった堀田さんが、なんだかピクピクしている。
体調が悪いのかな?
「大丈夫?」
「は、はい、だ、大丈夫ぅ~」
あんまり大丈夫そうじゃないね。
「病院に行った方がいいかも。ボクがつき添うから」
「い、いえええ! ほ、ホントに大丈夫!」
本当かなあ、まだ顔が赤いんだけど。
熱があるんじゃないかな?
「あ、でも、少し歩くと元気になるかもしれません。苦無君、一緒に来てくれますか?」
堀田さんが、上目づかいにこちらを見る。
「うん、いいよ。でも、外は暑いけど、本当に大丈夫? 図書館の方が涼しいと思うけど」
「た、た、たぶん、涼しすぎたのかも? い、行きませんか?」
「うん、分かった。じゃあ、ケイトさんと佐藤君に連絡しておこう」
ボクがスマホを取りだすと、堀田さんはそれを手で押さえた。
「わ、私が連絡してきます! 苦無君、先に下へ降りて、入り口のところで待っていてもらえませんか」
「うん、いいよ。でも、体は大丈夫?」
「は、はい、大丈夫、大丈夫」
そう言いながら、堀田さんは、喫茶室から出ていった。
彼女の足取りが意外にしっかりしているのを見て、言われたとおりボクは一階へ降りた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます